東京オートサロン2022(スバル STIブース)

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2022年のオートサロンは、サプライズ的な展示が多くありました。メーカー・ブースの展示で気になったものを、見ていきます。今回はスバルのSTIブース。

BEVのソルテラのSTI仕様が参考展示されていました。ソルテラの見た印象としては、カラーリングのためにスバルらしく見えるという感じも受けますが、フェンダーのデザインなどスバル的にも思えます。以前のコンセプトカーで、こんなデザインがありました。ちなみにトヨタ版のbZX4とはフロントマスクがとくに異なります。車名はbZX4のほうがスバル車っぽい気もしますが……。

スバルで開発リーダーを務めた小野大輔さんに少しだけ話を聞くことができました。ほかのスタッフの話では、まああれはトヨタさんの開発、みたいな口ぶりしたが、それを伝えると、いやいやそうではないと。スバルから開発陣がトヨタへ出向して共同で開発し、もちろんトヨタの電動関連技術、部品を使っているが、それは活用しているということなのだと。もちろんもっとやりたかったことはあるが、まずはこうしたいということは全般にやったとのことでした。

個人的に一番関心があったのが、電気自動車では「スバルらしさ」をどうするのかということでした。実は以前に別のエンジニアとの会話で、シンメトリカルAWDをEVでやるとするとモーターは縦置きですか? みたいなことを聞いたところ、実はそういうことは社内で冗談のように話したりしたことはあると言われました。そこで今回、まさかモーター縦置きではないですよねと聞いてみたら、デフを中央に置いてドライブシャフトを左右等長にすることにこだわったとのこと。トヨタ側と交渉してそれを実現させたというのです。

スバルの「シンメトリカルAWD」のそもそもの発端は、スバル1000で縦置き水平対向エンジンを採用したことで、水平対向を採用したのは、デフを中央に置くことが大きな理由でした。その前のスバル360でも、デフを中央に置いて、ドライブシャフトを等長で長くすることにこだわっていました。今回ソルテラでそこにこだわったのは、別にスバル360以来の伝統だからではなく、クルマとしての基本的資質にこだわったからだということでしたが、この考え方はまぎれもなく「スバル」なのだと、思った次第。かの百瀬晋六さんも、EV時代のスバルの未来に、草場の陰で希望を感じているか……。

モーター駆動の場合、左右等長にするのは難しくないような気もしますが、小野さんの話では、そんなことはなく、ギア類の配置など工夫しなければならないとのこと。左右等長はAWDの前後ともそうなっているようです。

ちなみに、これはトヨタ版bZX4の画像ですが、これを見ると、見えているリアのドライブシャフトはたしかに左右等長になっています。

会場には2021年にスーパーGTでチャンピオンを獲得したGT300のBRZも。以前から速さは見せていたのが、マシンを新調したところで、見事にチャンピオン獲得となりました。

展示はありませんでしたが、スーパー耐久のBRZは、2022年には、トヨタと共同でカーボンニュートラル燃料を使用して参戦するとのこと。バイオマス由来の合成燃料のようです。トヨタを筆頭に、水素燃料やe-フューエルを使う取り組みがモータースポーツのアピールの場で活発化しています。これらの特徴は内燃エンジンをそのまま使えること、そして気体の水素は別として、それ以外の液体燃料はEVの電池よりもエネルギー密度が高いので、自動車としては現実的だということです。そしてなによりスバルの場合、秘伝の水平対向エンジンがそのまま使えるわけです。

スバルでのサプライズは、このE-RAコンセプト。EVのプロトタイプレーシングカーです。市販車の世界では、水平対向を堅持するスバルが電動化をどうするのかは、注目されてきましたが、モータースポーツ分野で、まさかいきなりこんなEVレーサーをつくるとは、意表をつかれました。

STIで開発を統括する森宏志さんに話を伺えましたが、このクルマの開発の背景にあるのは、FIAが昨年発表したElectric GTカテゴリーとのこと。この電動GT規定では、2WDでは2モーター、4WDでは4モーターが許されているので、4モーター4WDを採用したというのです。マシンコントロールはそのほうが優れるし、EVレースは究極的にはそういう方向に向かうだろうと考えて、それに合わせたと。

ちなみにこれはFIAが発表したElectric GTのイメージ図。この画像では4モーターの4WDとなっており、E-RAの中身もこんな感じなのではないかと思います。

スバル本体の電動化部門に相談はしているが、開発自体はSTIで、森さんも含めて電動化技術の経験はないので一から学んでいるとのこと。このE-RAで電動GTカテゴリーに参戦するわけではなく、目標はニュルブルクリンクのタイムアタック。中国のEV、NIOが出した市販車最速タイムを破ることにあります。EVではVWのID.Rがさらに速い記録を出していますが、あれはシングルシーターの完全プロトタイプレーサーだから、別物だとのことです。このE-RAもルマンのLMプロトのようなレーシングカーに見えますが、2シーターだそうで、建前としてはあくまでGTカーということのようです。

ID.Rはもともとパイクスピーク・ヒルクライムレースのアタックマシンで、それを転用してニュルでも記録を出したという経緯ですが、パイクスのタイムは約8分弱で、ニュルは約6分でした。しかもパイクスは全コース登りです。ニュル1周ならば重い電池の搭載量は少なくてすむし、純EVがチャレンジしやすいのだろうと思います。

E-RAコンセプトについても、スバルらしさについて少し聞いてみましたが、重量配分についてこだわるというコメントが出てきました。トルク配分も重要で、シュミレーションでいろいろやってきているそうです。今年は日本でテストを重ねて、来年2023年にニュルに行く予定とのこと。

もうひとつ、いきなりEVではなくハイブリッドでのモータースポーツの可能性を聞いてみたところ、現状では考えていないそうです。ハイブリッドはやはり複雑でコストもかかると。少なくともF1とかルマンなどのトップカテゴリーのハイブリッドは、たしかに複雑高コストです。ただ、スバルも今後十数年のうちに全車ハイブリッドを含む電動化という計画を発表しているので、いずれ高性能モデルもハイブリッド化されて、市販車ベースではハイブリッド車が競技に出ることになるのかもしれません。

それにしても、初のEVレーサーが、サーキットの「GTカー」志向なのは、感慨深いものがあります。ラリーやラリークロスの車両ではないわけです。多分今のスバルは、電動云々とは別に、GT3カテゴリーに参戦できるならすぐにでもしたいだろうと思います。ただ現在は、GT3に適切な車両がない。GT3は2ドアでなくてはならないわけです。BRZは、森さんによると、やはり小さすぎるようです。大排気量、大馬力の車両が、GT3では主流です。WRX に昔のように2ドア仕様をつくれば、あとは今のエンジンのままでも、開発したあかつきのモーター駆動でもいかようにも仕立てて、GTレースを席巻できると思うのですが‥。スバルの未来を想像するのが、楽しみになってきました。

(レポート・写真:武田 隆)

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