JAIA輸入車試乗会2023(メルセデスEQSとEQE)

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毎年恒例のJAIA輸入車試乗会。メルセデスのEVセダン、EQS450+とEQE350+の印象記です。

欧州高級ブランドは、軒並みEV大型車を投入していますが、メルセデスも当然そこに入ります。EV専用プラットフォームのSクラスに相当する大型セダンが、このEQS。ノーズが短い。

従来の“非EV”メルセデス車とは違うフォルム。ノーズからテールまで「ワン・ボウ(弓)」と呼ぶラインを形成。メルセデスは従来から弓形のルーフにこだわる傾向がありましたが、ついに完全弓形が実現。モーターがリアなので、なにもないノーズを短くできたのがひとつ。EVならではの新しさも表現したと思います。

このキャブフォワードデザインにより、キャビン空間を広くとったのは、合理的。ほかのドイツ高級ブランドでは、EV でも旧来の価値観の「ノーズが長い」フォルムにこだわる感がありますが、メルセデスは、あっさり未来的、合理的なデザインに進んだ。

かつて1960年代にミドシップが登場したとき、スーパーカーでは、ノーズの短いキャブフォワードのデザインが流行りましたが、フェラーリなどは近年それをやめてしまった。ノーズが長いほうが格好いいと思う人が世の中に根強くいるわけです。高級車は保守的なものが好まれる傾向があり、このEQSのデザインが、この先どう発展するのかは興味ぶかいところ。

メルセデス自身、ショートノーズの経験が過去にあります。1990年代に登場した小型車Aクラスです。Aクラスはその後FF部分の設計が変わったこともあり、ノーズの長いデザインに変わってしまった。もうひとつ1930年代にRR小型車を市販したこともありました。

ルーフラインはスムーズそのもので、ボディ表面も超フラッシュサーフェイス。CD値は世界最高値0.20を達成しており、ワン・ボウ・ラインは、キャビンの広さとともに、空力に貢献。リアはテールゲート式で、完全にファストバックです。ただしセダンを名乗っており、近年流行の5ドアクーペとは違って、スポーツ志向ではない。かつてのシトロエンCXなどに近いイメージを感じます。

ホイールベースは3210mmもあり、後席足元スペースは十二分。後席の快適性はまたじっくり確認したいところですが、そんな贅沢な機会があるかどうか。

室内は、広大なダッシュボード一面のモニターパネルが驚き。実際は、助手席用を含めて3つのモニターに分かれているわけですが、一枚のガラスで覆っているので、まさに未来的。この車両の内装色は、ステアリングまで白で、パーソナル向けという趣。

タイヤは285/40R21。重い車重、甚大なパワーとトルクを考えると、大きなタイヤが必要なのか。ちなみに2560kg、245kW、568Nm。ホイールのデザインも斬新。空力を意識したと思いますが、電気をイメージしたのか、青色のアクセントも印象的。

走った印象としては、メルセデスらしいコンフォートさと、EVらしい静粛性、洗練はあったものの、ある程度、予想していた範囲のもの。乗り心地は、とろけるような滑らかさのある従来のSクラスと比べて、重いEVではさらに向上するかと期待していましたが、今回走った範囲では、そうではなし。クルマにふさわしい道をあまり走れなかったせいもあるのかどうか。

いっぽうこちらはEQE。ひとつ下のEクラスに相当。プラットフォームはEQSと共通で、外観は一見同じに見えますが、微妙に各部が違います。クラスごとの差異化は、メルセデスは今まで数十年や百年もやってきたこと。EVになっても同じなのでしょう。

とくにEQSと違うのは、リア。やはりワン・ボウ・ラインですが、ホイールベースが少し短く、後部がEQSのようには伸びやかではない。

EQSと違ってこちらはトランク式。トランクリッドとリアウィンドウの間に段差があり、ストップランプが埋め込まれています。ホイールベースは3120mmで、EQSより90mm短い。

タイヤは255/45R19。車重はEQSが2560kgに対し、2390kg。ホイールは、リム的部分がやはり厚めですが、見た目は比較的オーソドックス。

ダッシュボードは、EQS450+よりはオーソドックス。加飾は、つや消しの平面パネルに“星”が散らしてあり、新世代のクルマという感じ。この星はスリーポインテッドスターです。メルセデスは従来からコラムシフトでしたが、さらにナビ画面の操作などもタッチパネル式にしたので、センターコンソールにスイッチ類はなにもなく、物入れと化しました。コンソールがフローティング方式なのは、もはや珍しくなくなりました。

さて乗った印象ですが、足が硬めというのが第一印象。そのとき走行モードが「Sports+」あたりかと思ったら、「Comfort」でした。ただその後それほど硬くないと思う時もあり。車両管理スタッフに聞いたら、金属バネの固定サスだと言われて、ひとまず納得したものの、1248万円のクルマでそれは不思議だと思って、あとで確認すると、エアサスで可変ダンパーでした。荒れた、細い田舎道なども通ったので、走行中の調整が追いつかなかったのかもしれませんが、硬いと感じるときがあったのは事実。ただ、タイヤがばたつくことはなく、剛性はしっかりしています。

走行モードを変更すると、モーターの反応がシャープになりますが、それ以上に、音が変わるのがおもしろい。EQS450+でも多少は変わったはずですが、EQE350+では、がぜんダイナミックな音になる。もちろん車内で流している合成音で、エンジン音のようでもあり、電子の乗り物のようでもあり。また、モニターパネルを操作すると、潜水艦内で反響するなにかの電子音のごとき音がして、未来的。このクルマは、AMG系の装備はほとんどないスタンダードなグレードですが、EQEはEQSとの差別として、足を少し硬めて、音もスポーティーにしているのでしょう。あえてそうしないと、両者同じになってしまうとも思えます。

ちなみに通常のEクラスは全長4940/全幅1850/全高1455mmで、ホイールベース2940mm。EQEは4970/1905/1495mmで3120mm。ホイールベースが長い以外は、Eクラスと大きくは変わらず。しかし、床一面にバッテリーを敷き詰めて着座位置がやや高いのか、少し車高の高いクルマに乗っているような感覚がありました。ヘッドルームは十分あるので、それほど座面が高いことはないと思うのですが。

このほか、カーブを曲がっても違和感がないので、4WSではないのだなと思ったものの、最後に鋭角の交差点を曲がったところで明確に4WSの動きをしました。あとで走る姿を外から見たら、やはり後輪が動いていました。EQE350+ではリアアクスルが最大10度曲がります。これがAMGモデルだと3.6度になるようです。

メルセデスのEV専用モデル2台。乗り味もパッケージングも、洗練されていますが、まだ向上できる余地はあるように思えます。最大限やったと思えるのは空気抵抗係数です。もちろんEVとして、技術的に最高のものなのだと思いますが、EVはどのメーカーでもある程度洗練されているので、メルセデスとしては差別化がしにくい面はあるかもしれません。

それからすると、個人的に感心したのはやはりショートノーズのスタイリング。これをズバッとやったところに、メルセデスベンツの前衛ぶりと、合理主義を感じます。老舗の高級ブランドなので保守的な性格を大事にしていますが、ガソリンエンジン車を発明したのだから、元来は“前衛”です。工学の分野では真の前衛は合理的なはず。なにはともあれ、世界最古でありながら、21世紀のEV化でも、まだ新しさへの姿勢を示すメルセデス・ベンツは、すごいと思う次第です。

(レポート・写真:武田 隆)

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