ルノー・メガーヌRSに試乗

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ルノーの新型メガーヌRSに試乗しました。4輪操舵の4コントロールと、ダンパーインダンパーのHCCダンパーが見どころです。

3代目にして、メガーヌRSは4ドア・ボディのみになりました。ベースのメガーヌ(メガーヌとしては4代目)の2ドア設定がなくなったからです。ほとんどスポーツカーのようだった先代の2ドアボディと比べると、新型はハッチバック車そのもので、見た目のスポーティさでは負けています。とはいえ、屋外で実車に接してみると、フェンダーの張り出しなどなかなかワイルドで、一目でハイパフォーマンスカーとわかる佇まいです。上の写真のように、雨に濡れたボディではそれが強調されています。メガーヌのボディ自体が、4ドアながら精悍なスタイルです。

リアビューも、いかにもハイパフォーマンスカーらしさをアピールしています。ややシンプルさに欠けるのは、4ドアボディで、高性能車らしさを出そうとがんばったからでしょうか。とはいえライバルの1台、シビック・タイプRのような、“ガンダム丸出し”でないのは、さすが大人の国らしいということでしょうか?

近年のルノー・スポール車では定番になっている、リアディフューザーでリアのダウンフォースを得ています。そのおかげでガンダムエアロなしでもOKというわけです。このあとニュルブルクリンクでの記録で、タイプRを逆転するのか注目です。

後輪も操舵される4コントロール。60km/hまでは逆位相で最大2.7度、それ以上だと同位相で最大1度、後輪がステアします。レースモードでは、その境目が100km/hに上がります。

4輪操舵は、1980年代に日本車で流行しましたが、その後なくなってしまいました。理論はすばらしいが、実際の走行フィールが芳しくないということがあったと思います。ところが最近、ポルシェやフェラーリをはじめ、超高性能車で4WSが採用されるようになっています。電子制御技術が飛躍的に進化したことが大きいのではないかと思います。

ルノーはそのような高額スポーツカーではなく、量産ハッチバック車で4WSを採用してきました。ルノーは4WSの経験を積んでおり、レースフィールドでも使っていました。レースでは操作の違和感が大きければ使えないはずですが、そこで培ったことに自信があるのでしょう。

メガーヌはリアサスペンションが、トーションビームです。近年ではこのクラスの多くが、マルチリンクに格上げされているので、単純にスペックでは劣ります。もちろん、クルマの設計はスペックだけではないのですが、一般論として、マルチリンクは乗り心地とコーナリング性能を両立できるということがあり、やはり基本的な優位性があります。ルノーもマルチリンクを使えばさらによくなるのでしょうが、そのかわりに4コントロールを使ったという図式です。マルチリンクよりも、コストを抑えられるのでしょう。

アルピーヌでもそうですが、ルノーは可変ダンパーも使っていません。なしでも総合性能が高いと豪語していますが、スプリング固定では単純によいとは言えないという考えもあるようです。

4コントロールは、ルノースポールモデルのコーナリング性能を上げたことに目が行きがちですが、乗り心地向上にも貢献しているはずです。足を固めなくても、安定して曲げることができるわけです。

さらに、ハイドロリック・コンプレッション・コントロール、HCCダンパーの採用も、乗り心地向上に貢献しています。なめらかな道を流して走っていると効果はないですが、高速走行時の突き上げや、とくにコーナリング中に路面が荒れているようなときに、効果を発揮します。ダンパーが底付きする領域で、セカンダリーダンパーが働いて、ショックを和らげ、タイヤの接地状態を乱しません。ラリーで使用されている技術です。

この4コントロールとHCCのダブルの効果が、メガーヌRSの走りの大きな見どころです。

実際に走った印象ですが、走り始めてすぐ、乗り心地のよさに気づきました。これは4コントロールとかHCC以前の話で、今回日本に導入されたメガーヌRSが、「シャシー・スポール」だからというのもあります。先代メガーヌRSは、サーキット走行も視野に入れた硬い足の「シャシー・カップ」がメインで輸入されていました。ルノージャポンによるこの判断は、先代が2ドアクーペ的ボディで、新型が4ドアハッチになったということがあるようです。

試乗時はほとんど霧が出ていたので、速度の出ないツイスティなルートを選んで走りましたが、路面も荒れており、そこでは少しスピードを上げても、凹凸をよくいなして、乗り心地の良さは変わりません。タイヤもこれには貢献しているのか、ポテンザのS001を履いていますが、245/35R19というサイズで、しかもグリップ重視の高性能車なのに、この乗り心地はたいしたものです。

試乗時間の終盤、霧が晴れたので、見通しのよいルートで少しがんばって走ってみました。ほんのさわりだけですが、やはりコーナリングのしやすさ、安定感は、ちょっと異次元の感じです。スパッと曲がるのだけど安定している。限界ははるか先にありそうです。

先代モデルは、フロントサスの剛性感、巌のような接地感が印象的でしたが、新型は硬くつっぱるようなところがないのに、不思議にびゅんびゅんと曲がって行き、余裕で安定しています。

アウト側のリアにGをかけるように曲がってみました。意図的にブレーキングドリフトを誘発させるようなイメージです。このとき、リアはいつまでも沈み込み続ける感じでした。実際には一瞬のできごとですが、あたかもリアがゆっくり滑り続けているかのような感覚です。これは4コントロール(逆位相だったろうと思いますが)のためもあると思いますが、さらにHCCの相乗効果で、リアサスが底づきせず、リアタイヤの状態も余裕があり、じわじわと縮みながら荷重の変化を受け止めたのではないかと思います。

ルーテシアRSもHCCは装備していますが、フロントだけです。ルーテシアもロールして奥が深い動きをしますが、ヘアピンなどで勇んでパワーをかけると前輪が空転して、やや不安定感があります。メガーヌと比べて考えると、4輪の荷重バランスが安定しないで、タイヤの接地が保たれないような感じです。メガーヌはトレッドが広いぶん安定感があり、それに加えて4輪HCCと4コントロールのおかげで、コーナリングの安定感が数段違う印象です。

4コントロールは、メガーヌGTも採用しており、以前に試乗したときに、低速コーナーで極端にハンドルを切ってみたところ、FRのテールスライドかフォークリフトか、というような動きをして、きらいではないけど、ふつうとはあきらかに違う動きをしました。RSも基本は同じで、プログラムが違うだけだそうです。今回はとても限界までは試すことはできませんでしたが、つきつめた走りをしたり、長く走ったときに、どの程度の違いを感じるのか興味があります。

スタッフの話では、ミハエル・クルム氏が、サーキットで縁石を攻めてもほとんど跳ねなかったのだそうです。また、長時間ドリフトを維持するのは無理だと言ったそうです。開発ドライバーは、クルマを知り尽くしているので、できると言ったそうですが。そういう次元のことはともかく、天気の悪いなか短時間乗ったかぎりでは、多少がんばっても「暖簾に腕押し」だと思ったしだいです。サスペンションは底なし沼のようにいつまでも沈みこむかのような感じだし(あくまで印象ですが)、限界は大変高そうで、そこに至るまで余裕を見せ続けそうです。

エンジンは、ダウンサイズした1.8リッターで、新規の設計です。進化の果ての先代のF4Rエンジンがよかったという声も聞きますが、これからまた進化していくのでしょう。ベースエンジンは日産との共同開発ですが、直噴化されており、燃費と高出力両立のために、ルノーのF1部隊の技術まで、総動員して開発したということでした。身近なところでは、スバルWRXなど、もっと高出力なクルマも珍しくないので、パワーは驚くほどではないですが、十二分です。レースモードなどを選ぶと、アフターファイヤなどが賑やかで、シフトチェンジのたびにバリバリといい、最新パフォーマンスカーのお約束に従っています。

ステアリングの握りは、ややごついですが、スポーツ車として悪いものではありません。変速はゲトラグ社製のルノーおなじみのEDC(いわゆるDCT)です。MTでないのは、個人的には残念ですが、性能は今やDCTが上回ります。シフトのパドルが、コラム側につくのは、ワインディング好きにはありがたいことです。

フロントシートは良好ですが、けっこう大きめです。ステアリングのごつさもあいまって、ずいぶんと立派なクルマに乗っているという印象があります。ボディの剛性感も新型メガーヌは基本的にたいへん高く、高品質感があります。今回のメガーヌは、ボディ、エンジンとも新設計で、先代から大きく進化しました。

後席も乗り心地はよく、突き上げもとくに感じません。ファミリーカーとしても使えるクルマです。ただ、前席がヘッドレスト一体型でしかも大柄なので、やや心理的な閉塞感はあります。Cピラーがけっこう太く、窓の開口部も小さめです。

メーターパネルは、デジタル表示可能の液晶メーターで、モードによってデザインが変わります。

レースモードでは、このデザインになります。ESCはoffになります。タコメーターはレーシングカー的な横一直線のグラフ式ですが、いっしょうけんめい走っている最中にモード変更したので、タコメーターの読み方がわからず、ちょっととまどった次第。

4ドアになり、一見おとなしくなったように見える新型メガーヌRSですが、走っても、ちょっと乗っただけでは文化的になったという印象で、攻め込んでいっても、そのしなやかさは保たれたままです。それでいて痛快さがあり、限界も大変高く、サーキットもこなせるのでしょう。運転を楽しめる範囲が広く、日常生活でも使える範囲が格段に広がっています。マニア御用達から脱却しつつ、マニア垂涎の出来栄えではないかと思います。

(レポート・写真:武田 隆)

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