今回試乗会に出展されたMINIと同様、このフィアットモデルは疑いも無く最も古いモデルのひとつである。1936年に発表されたフィアットの小型車は500の名前の通り570㏄のエンジンを持つ国民車で、1957年からは500㏄の空冷二気筒エンジンをリヤに配置したRR形式に変身し、2007年までこのモデルが生産された。その後もこの愛嬌のある丸みを帯びたモデルは継続され、現在に至っている。エンジンは当初の2倍の1.2リッターに拡大されたが、この500Cモデルには900㏄の二気筒マルチエアインタークーラー付きターボエンジンがFF形式で装備されている。変速はATモード付のシーケンシャル方式で、加速の途中にやや息付きが感じられるのは歴史を感じるということでもある。電動開閉式のソフトトップが標準装備されているのも特徴で、2ドアの4人乗りのため、後席に座るとやや閉じ込められた感じがするのは致し方ないが、オープントップが狭苦しさを緩和してくれる。
山道と高速道路が混在した試乗コースを走ると車格に見合う以上の走りを体験できたが、ステアリングはあくまで滑らかで、荒れた路面の乗り心地も良く制御されており、破綻は無い。車重約1トンの軽い車体は小気味よくコーナーを回り、高速道路の加速にも不満を感じることは無かった。プレミアムガソリンながらWLTCモードの燃費は約19㌔ということで、充分満足できる数値である。標準価格は290万円に設定されており、最近の電子式運転アシスト機能はオプションに無く、あくまでこの車はドライバーが目を見開いて人力で操縦することを要求している。なにかと繋がった(コネクテッド)電気自動車がトレンドになりつつある現在、80年以上前にルーツを持つこのような車は絶滅危惧種と言われる可能性もあるが、あくまでも人間中心の潔さが売りでもある。“甘い生活”と名付けられたこのモデルでどのようなカーライフを過ごすのかはオーナーの心の持ち方次第である。
(リポート:片山光夫)