ルノーのトゥインゴGTに試乗したレポートです。走って楽しいRRのシティーコミューター。独特の設計と乗り味。ルノー・スポールが開発。
2016年に日本導入されたトゥインゴはなかなか好評なようで、東京都内などでは比較的よく見かけます。スポーティ版のトゥインゴGTが、昨2017年に限定発売された後、今回カタログモデルになり、2月22日に発売となりました。
ルノー各車の「GT」と呼ぶモデルは、ルノー・スポールが開発しています。ルノー・スポールは近々登場のアルピーヌの開発にも貢献し、ルノーのスポーツ部門として豊富な経験を持つ「工房」です。ルノー・スポールが開発したトゥインゴGTは、ノーマルモデルのエンジン出力を向上し、足回りなどをよりスポーティに仕立てたもの。スプリング+ダンパーは剛性を前後とも40%向上。アンチロールバーも強化されています。
注目点はベース車がRRであるということ。GTではファントゥドライブがアピールポイントで、ESC(横滑り防止装置)のセッティングにこだわって、テールヘビーのRRが持つオーバーステア傾向を抑えつつ、状況によってはかすかなテールスライドを楽しめる程度のセッティングをものにしている、という説明もされています。
エンジンは後部にありますが、出力/トルクは109ps/170Nmに増えています。ノーマル・トゥインゴ(インテンス)が搭載する0.9リッター3気筒ターボをチューニングしたもので、RRゆえにエンジンスベースに余裕がないこともあるようですが、吸排気系を中心に強化して出力向上を果たしました。
上写真のように左リアサイドにはエアインテークが付きます。リアに開くエアインテークというのは、1960年代に世に現れたミドシップ・スーパーカー以来、高性能車の象徴的アイテムでした。ダミーのデザインもありがちです。
そこをこの小さなトゥインゴGTは、実際に働くエアインテークを付けたので、立派です。まあ、ささやかなものですが、エンジンの吸気流入量がノーマル比+23%ということで、アイドリング中でも、車外に出るとこの付近からシューシューと空気を吸うような音が聞こえます。思わず手のひらをあてて口をふさいでみましたが、まさか掃除機のように吸われることはありませんでした。
エキゾーストパイプも2本出しになり、これもふたつとも機能しています。リアゲートにはRENAULT SPORTのロゴが誇らしげに。
RENAULT SPORTのロゴは、リアドアの下部にも付きます。
さらに。フロントドアのサイドシル部分にもプレートが入ります。ここは高級ブランドなどがロゴを入れる定番的スペース。ともあれ、ルノー・スポールが開発したということは、とにかくアピールすべき、売りであるわけです。
ルノーのラインナップを見ると、メインのハッチバック系モデルには、スポーティーなGT系モデルと、さらに看板スポーツモデルとしてのルノー・スポール・モデルが設定されています。しかしトゥインゴにはルノー・スポール・モデルは設定しないとメーカーは公言しているようです。スペース的に、エンジンをこれ以上強化する余裕があまりないようです。0.9リッター3気筒ターボがノーマル同様に49度寝かされて、リアの床下にぎっちり詰め込まれています。
かつてルノーは1980年代に5ターボ、2000年代にはクリオ・ルノー・スポールV6を市販しました。それらはFFハッチバック車をベースに、大胆にもリアシートをつぶして後部にエンジンを積んで、高性能ミドシップ車を実現したのでした。今回のトゥインゴははじめからリアエンジンなのだから、荷物スペースや、場合によってはリアシートもなくして、大きなエンジンを積めばよいのでは、と思いたくなります。しかしそうなると「採算度外視」の開発になります。今やルノー・スポール部門は独立採算性が基本なので、ビジネスにはシビアで、昔のように「うかれた」クルマは簡単にはつくれないようです。そもそも5ターボやクリオ・ルノー・スポールV6は、第一は競技用に仕立てられたマシンでした。
とはいえ、今やトゥインゴそのものがRRで、軽度に「うかれた」クルマとして企画されたわけなので、ルノーの楽しさは健在といえそうです。
室内は、基本的にはノーマルと大きく変わらず、シート生地などの意匠が変わっています。内装各所に、アクセントのオレンジが入ります。この車両はボディカラーがオレンジなので、内装のアクセントもオレンジ。このシートはノーマルと同じ形状のようです。ルノーの常でフィット感がたいへんよく、ぴたりと座れます。ただし、サイドサポートはほぼありません。
通常のモデルならこれでも体にフィットするので十分ですが、スポーティモデルとすると、ややもの足りない。ニーレストもないので、とくに右コーナーでがんばってGをかけるときに困惑しそうです。写真に見えるシフトレバー前方の黒い箱は、取り外し式の単なる物入れなので、膝でふんばることはできません。DIYなどで加工する余地はありそうですが。
リアシートはこんな感じ。ノーマルのトゥインゴと変わらないようです。前席のシートバックがヘッドレストまで一体で大きいので、膝スペースをそれほど侵食してはいないものの、視界を遮り、開放感はありません。ただし立派な4ドアなので、利便性はあります。
後部の荷物スペースもノーマルとは変わらず。この床下にエンジンが収まっています。ノーマルは静かだし、熱の面でもあまり熱くならないのを前回の試乗で確認しました。今回ノーマルのトゥインゴを所有するというスタッフに聞いたところでは、長時間走るとやはり暖かくなるそうで、なまものはあまり上に載せたくないとのこと。とはいえ、夏は犬が上に座りたがらず、冬は逆に座りたがる、というくらいのようです。
ノーマル同様フロアマット下に、断熱と遮音に効いていそうな、ぶ厚いウレタン板が敷かれ、その下に鉄板があり、エンジンがあります。今回の強化エンジンでどれくらい熱が出るのかわかりませんが、音に関しては、うるさい感じはありませんでした。
むしろ高速道の速度域だと、タイヤのロードノイズと風切り音が目立つために、エンジン音が聞きづらくなりました。それが困るのはシフトアップのタイミングをとりにくくなるからです‥‥。
というのも、このトゥインゴGTにはタコメーターがありません。ツインクラッチ式2ペダルMTの6速EDCと、3ペダルのいわゆるマニュアルの5速MTがありますが、マニュアルではもちろん困るし、EDCでもマニュアル操作はできるので、やはりあったほうがよいです。
EDCの場合は、オーバーレヴの可能性があれば減速時のシフトダウンは制止され、加速時はシフトアップを強制します。しかしMTの場合、シフトダウン時のオーバーレヴは下手をすれば可能性があります。今回メインで乗ったのはMTでしたが、シフトダウンについては、いっぱいに回して走ったときにやはりちょっと慎重になりました。
加速時はリミッターが働くので安心ですが、今回の乗り始めで、まずはエンジンを回してみようとしてみたところ、いきなり頭打ちになってしまいました。このところハイパワー車に続けて乗っていたせいもあるのですが‥‥。慣れれば音質の変化で、シフトアップのタイミング、レッドゾーン付近まで行ったことがだいたいはわかりそうです。ただ、タイムアタックのようなせいいっぱいの走りでは、そうも言ってられないはず。
もともとトゥインゴのMT仕様車は、スマホにアプリでタコメーターを表示させる方式をとっています。このトゥインゴGTも本国ではその仕様になっているのですが、日本仕様ではナビを日本独自のものに変えており、スマホに連動させるシステムが死んでいるため、スマホが使えないというわけです。せっかくの貴重なMT車のファントゥドライブモデルとしては、残念です。
スマホにタコメーターを表示させるというのは、若者文化をフォローする面もあると思いますが、コストダウンも理由だろうと思います。ルノー・スポールがこだわってファントゥドライブに仕立てたというのに、タコメーターをけちってどうするのか、とは思います。姉妹車のスマートにはタコメーターが付くモデルが存在しますが、ただあちらは、こちらに比べてだいぶ価格が高い。トゥインゴGTの場合、社外品を付けるという選択になるのでしょう。
いっぽうノーマル車とほぼ同じ内外装の質感は高く、内装など装備はシンプルでも、安物の悲壮感はなく、ポップで粋なデザインといえます。なにしろ基本を共用するクルマがダイムラー・ベンツのスマートなわけで、そう考えると質感については説得力があります。
このGTはベルトラインのステッカーが標準装備で、フェンダーの張りを表現していて、アクティブな感じでよい印象です。ちなみに、先に発売された限定車にあったルーフとボンネットのステッカーは省略されています。
さて、走りについてですが、エンジンについては、パワーはそれほどあるわけではなく、ルノー・スポールの最高峰の称号「R.S.」ではなく、やはり「GT」がふさわしいと実感します。とはいえ、活発に走るにはまずはよいかと思います。3気筒ターボはなかなかいい音です。今回、高回転まで回したとき、ときに回転がしぶくなりましたが、それは単純に回しすぎていた可能性があります。なにせタコメーターがないので、確認できませんが‥‥。
首都高も走ってみましたが、交通量も多く、コーナリング云々をいえるほどのペースではなく、当然ながらESCも一度も作動していないはず。ただ、コーナー出口でアクセルを踏み続けてみたところ、心なしかRRらしい走り方を感じた瞬間がありました。旋回の中心がフロントエンジン車とは異なり、FRとも違って、ノーズを中心軸にして重いエンジンを積んだリアが、外側に大きく振り出される、というような雰囲気。タイヤはもちろん微塵も滑らずオンザレールなのですが、なにかが違う。限られた走行で針小棒大の感想ともいえますが。
ルノー・スポールによると、低速コーナーにおいては、軽度のオーバーステアをともなう走りが味わえるセッティングに、ESCをはじめとして調整しているそうです。首都高のようなところでは、まずなにごとも起きないでしょう。起きては困るから。なりは小さくてもRRです。ファントゥドライブ車といっても、ふつうの人が買えるクルマなので、そこは万全な安全策は外せず、きついカーブのような低速域だけ、ちょっと遊ぶマージンを与えているということなのでしょう。
首都高ぐらいだとRRらしさを実感できるのは、加速時です。RRは後が重く、前が軽く、後輪で地面を蹴るので、加速時にリアを沈めつつフロントを浮かせます。そしてもともとフロントが軽く、トルクステアの類がまったくないので、FFに慣れた身にはステアリングの手応えに欠けており、それに加えて加速でフロントがさらに荷重を失うと、おっと思うわけです。
今回のような走り方では、コーナリング時にアクセルをオンオフしても、軌跡が変わるようなことはありません。万全なタイヤを履いているので常にオンザレールです。それでも、前荷重が軽くなったりすると、低μ路で加速しながらだと曲がりにくいのではないか?、と連想するような感触が伝わります。これも運転オタクの誇大妄想的感想で、不安を感じるようなものではないですが。実際ESCも働くし、フロントタイヤの接地も適正のようで、簡単に進路を乱すことはないのだと思います。ただ、そういう想像力が働くくらい、あきらかにFF車とは異なる感触を随所で見せます。そこが運転好きには、おもしろいところです。
その昔アルピーヌA110は、アルプスを舞台にしたラリーを、パワーオーバーステアで走り回ったわけですが、想像力を解き放つと、このトゥインゴはそれと同じ資質をもっている、などと言いたくなります。ただ実際はアルピーヌほどのパワーはなく、当時のアルピーヌよりははるかに優れたタイヤと横滑り防止装置のおかげで、トゥインゴは動きを規制されているわけです。さらにトゥインゴは、RRとメーカーでは言っていても、厳密にはミドシップともいえ、前後重量配分は、昔の真性RRよりははるかに前寄りです。おまけにホイールベースが短く、しかも焦点となるリアオーバハングも極端に短いので、かつてのアルピーヌA110のように、豪快に重いテールを振り回してフルカウンターステアでコーナーを抜ける、などという走りは多分なにをどうチューニングしてもできないのかもしれません。あまりRR、RRと騒ぐと、メーカーのほうも苦笑するかもしれません(笑)。
ちなみにルノーの人に聞くと、ノーマル・トゥインゴの話ですが、雪道の走破性は優れているということです。難なく坂を上がっていき、下りも同様だということです。RRは、駆動輪の上にエンジンが重しになっているので、トラクションが効きます。FFも同様ですが、FFは平地では優れているものの、駆動輪が前のため、上り坂の発進時、加速時に弱いというのは昔から有名です。RRは直線路で考えた場合、加速時とブレーキ時のバランスが最も優れたレイアウトです。ただしコーナリング中となると話は別で、最もバランスが悪いレイアウトです。結論としては、滑る路面では、カーブを気をつけて走れば、優れているといえます。トゥインゴは、日本では北日本でも南と同様に均等に売れているそうです。
首都高では乗り心地はかなりよく、ハーシュネスは抑えられています。目地段差などではやや突き上げがなくもないですが、舗装が荒れたようなタイプの路面では、掘れているところをあえて選んで走っても、ほとんどショックなく滑らかに超えていくのは感心しました。路面の荒れたフレンチアルプスのスペシャルステージを知り尽くしたルノー・スポールならではの仕立て?、という勝手な想像力がまた働いてしまいますが、タイヤも優秀なのかもしれません。タイヤはヨコハマのブルーアースAでした。サイズはノーマルのトゥインゴよりも2インチのサイズアップで、前185/45、後205/40の17インチです。
一見クロスオーバーSUVかと思うくらい、タイヤが立派です。車体に対してタイヤが大きめなのは、安定感だけでなく、独特の乗り味にも影響しているかもしれません。見た目でも、力強さ、安定感を感じさせますが、このホイールのデザインは、トゥインゴが市販される前のコンセプトモデル、Twin’Runに装着されていたのと同じだそうです。トゥインゴの目指すところには、開発時からこのGTが視野に入っていたと言えそうです。
このほかステアリングはノーマルと同様革巻きでしっかりしたもので、良好です。ステアリングの切れ角は相変わらず大きく、裏道での方向転換などでは本当に助かります。
今回はMTがメインで、EDCのほうは少しだけの試乗でした。EDCは、ルノーのほかの上級モデルと違ってスポーツモードの設定がありません。とばすときにMTモードを選ぶことになると、EDCでもタコメーターが欲しいかもしれません。とはいえEDCは作動音が多少聞こえますが、ストレスなくそつなく走れるので、スマートです。ちなみに価格は、MTが税込229万円、EDCが同239万円。車重はEDCのほうが30kg重くなり、そのせいか0-100km/h加速はMTのほうが速いのだそうです。
都内での試乗会のあと、大磯で行われたJAIAの輸入車試乗会でも、少し乗るチャンスを得ました。狭くツイスティなルートも少しだけ走ることができました。
前述のように、都内で走ったときも、全体に車体の動きが、ややくせのある印象はありました。現行トゥインゴは、成り立ちが独特です。車高が1545mmとやや高めで、着座位置も高い、そのうえ車幅も1660mmと狭い。ホイールベースも短く、オーバーハングがまた短い。いっぽうサスペンションのストロークは短めのようです。そしてそもそもRRなので、前が軽く後ろが重く、基本的な動きはFF車とは異なるわけです。そういったことから、周期の短いピッチングが目立ったり、ボディの動きにやや独特のリズム感があり、一定のくせがあります。ドライビングポジションもアップライトです。
JAIA試乗会で、続けていろいろなクルマに乗る中で、トゥインゴGTにさっと乗りこんで走ると、その独特のくせは強調して感じられました。乗った瞬間は、ちょっと乗りにくいかと思うほどの違和感でした。ただ、人間というのは慣れるもので、少し走るとあまり気にならなくなってきます。
今回、たまたま前をやや速めのフランス製ワゴン車が走っていたので、それに露払いをしてもらいながら、少しいろいろ試してみました。ほとんどが2速のコーナーですが、そこでESCは何度か作動しました。ただ、ESCのランプが点灯することで作動がわかったということで、挙動としては今回程度のペースでは現れません。路面の荒れたカーブでフロントが逃げ気味になったことはありましたが、それも微かな程度です。オーバーステアよりはアンダーステアのほうが、多少出やすいようですが、それは当然の仕立てといえます。
このとき乗ったのもMT車でしたが、タコメーターについては、とくになくても大丈夫でした。そのいっぽう、ニーレストとフットレストがないこと、そして、シートのサイドサポートがないのは、コーナーをがんばるならば、やはり困ると感じました。左足先端の足裏で上体にかかる横Gまで支える必要があり、これはすぐに腰にくるなという印象でした。
今回の、導入時の試乗会は東京都内が会場でした。ということはルノーとしても、トゥインゴGTを、基本はシティ派と位置付けていると思ってよさそうです。シートとタコメーターのことから考えても、そう判断するしかありません。もしかしたら手が届きやすいRRだから、はじめからそういう制限を設けて開発したのかもしれません。
基本がシティ派というのは、ルノーのほかのGTモデルでも立ち位置は同じで、基本は街にありながら、高速走行やワインディングでも気持ちよく走れる、というのが持ち味といってよさそうです。もちろんルノー・スポールの見立てのシャシーはポテンシャルがあるので、それであき足らない人が、プラスアルファの投資をして、タコメーターやシートなどをどうにかする、ということになるのでしょう。
トゥインゴは、巷の高出力車だとがまんして走るしかないような、狭い日本の田舎道で、低い速度でも運転を楽しむことができます。アクセルを踏みこんでもたかが知れています。ホイールベースの短いRRの特性が発揮されて、コーナー入り口では小気味よく回頭し、出口ではフルパワーをかけても、たぶん限界的なハイペースでないかぎり、ESCにも助けられて安定し、後輪のトラクションを効率よく効かせて脱出します。FFとは違う特性で、かえって運転の楽しみが味わえます。小型ミドシップというとホンダS660もありますが、あれは、もちろん申し分ないファントゥドライブとはいえ、ある意味できすぎです。
トゥインゴはノーマル・モデルのゼンのMT車でも、運転は十分楽しく、むしろ、構えがないぶん楽しめるかもしれませんが、やはり走ることが好きなら、GTのほうがよりいっそうの手応えは感じられます。
ヨーロッパでは現行トゥインゴの競技仕様車もなくはないようです。ルノー・スポール・モデルは設定されないということなので、2代目トゥインゴほどはスポーツ界ではポピュラーにならないと思いますが、GTが市販されたことで、それなりに3代目も、今後スポーツを楽しむ人が増えるかもしれません。
(レポート・写真:武田 隆)