ポルシェのパナメーラ・スポーツツーリスモのデザインに携わった山下周一氏へのインタビューの第3回。
第1回、第2回では、ルーフラインのことなど、やや細かいところにこだわって話を聞きました。スポーツツーリスモについては、東京モーターショーのプレスカンファレンスでの山下氏のスピーチで、いかに考えてデザインされているかが、簡潔かつ的確に説明されていると思うので、最後にそれを掲載します。今回感じたのは、山下氏はポルシェという、理知的なスポーツカーメーカーで活躍しているだけあって、非常に話し方が明晰という印象を受けました。ああこれが「ポルシェ」なのだ、と感じいった次第です。
2017年東京モーターショーでのスピーチ
「このクルマをデザインするにあたり、われわれスタイリングチームにとっていちばんのチャレンジは、ラゲッジルームを増やしながら、いかにスポーツカーとしてみせるかということでした。ポルシェにとって、すべてのクルマはスポーツカーでなくてはなりません。ポルシェ社内ではこのクルマを「ワゴン」とは呼びません。あくまで「スポーツツーリスモ」と呼びます。そういったところにも、スポーツカーにこだわるポルシェの誇りを感じることができます。
新しくポルシェをデザインするにあたって大事なことがふたつあります。ポルシェとしてのブランドアイデンティティ、それに個々のプロダクトアイデンティティです。
サイドビューにおいてとくに慎重にデザインされた、フライラインと呼ばれるルーフラインとリアグラスの関係、角度、スポイラーの位置、大きさなど長い時間をかけて吟味されました。
後方に行くに従って傾斜したルーフライン、911にインスパイアされたスポーティかつエレガントなサイドウィンドウグラフィクス、力づよくダイナミックなCピラー、理想的な前後タイヤ位置の関係など、このクルマのキャラクターを明確に表現し、なおいっそうこのクルマをエレガントに見せるのに貢献しています。
フロントにおいては、ポルシェのブランドアイデンティティでもあるボンネットより高い位置にある、峰のあるフロントフェンダー、V字に刻まれたシャープなフェンダーライン、水平基調でダイナミックなフロントプランビュー、加えてフロント下部に位置するエアインテーク。さらに新しいブランドアイデンティティである4ポイントヘッドランプも、このスポーツツーリスモに的確に表現されています。
また後部デザインについても、後部にいくほど絞られたキャビン、力強く幅広なリアフェンダー等、スポーツカーとしての要素がはっきりとこのクルマにも表現されています。
さらに、スタイリングを規制することなく、要求される十分なダウンフォースを得るアクティブリアスポイラーは、ポルシェにおける非常に典型的な解決策だといえます。
さらにつけ加えるならば、ワイド感を強調し、横一文字に広がる彫刻的なリアランプの造形、立体化されたポルシェのロゴ等、ブランドアイデンディティがこのスポーツツーリスモにも明確に表現されています。この特徴的なリアランプは、ふだんは見分けのつきにくい暗い闇のなかでも、ひと目でポルシェと見分けのつく個性的なライトデザインとなっています」
(レポート・写真:武田 隆)