毎年恒例のJAIA輸入車試乗会。ボルボEX30の印象です。
EX30はボルボ最小のEV。北欧の苔をイメージしたというこの黄色が、いわゆるアースカラーとは違うかもしれませんが、ナチュラルな感じの色合いです。全長は4235mm。
重量は1790kg。EVとしては、ですが、比較的軽量な部類です。EX30は、もともとエコロジーに敏感なこの北欧発ブランドのなかでも、とくにサステナビリティを追求したモデルです。
空力を重視したホイールデザインは、最近多くなっています。サステナブルとはいえタイヤサイズは19インチ。モーターの出力も272psあります。馬力はもうちょっと少なくてもよいのでは、とは思いますが‥。ちなみに航続距離は560km。
走った印象ですが、さすがに動力性能で驚かすクルマではなく、力は十二分以上ですが、ある種おだやかさを残している感じです。
ステアリングは“四角”で、ハンドリング云々をいうクルマでないと感じられました。もちろんダイナミック性能はしっかりしているようです。今回乗った田舎道では、乗り味もとそれほどしなやかではなく、路面の凹凸などに対してもややダイレクトな印象でした。
シティコミューター的なイメージがあるので、そういう環境ではきびきび身軽に走るのが気持ち良いのではないかとも思います。560kmの航続距離なので、ロングドライブでどう感じるかは興味ぶかいです。
このクルマの注目点は、内装です。今回、途中忘れ物をして戻ったので時間が足りなくなり、内装の写真が撮れませんでした。これは、青山のボルボのショールームに置かれていた同じ内装のクルマの写真。
EX30は車体全体でエコを追求して、リサイクル素材や天然由来素材などを多く使用しており、内装はそのうえで、ボルボらしいナチュラルなデザインで演出しています。デザイナーのねらいどおり、心地よい内装空間となっています。非常にシンプルに徹しているので、「エコロジーのクルマ」だということも感じられます。
運転した印象では、ニーレスト的な支えがあまり存在感ないとか、ステアリングが“四角い”とか、シートのサイドサポートがあまりないなどで、山道などの走りを活発に楽しむタイプではないとは感じました。
また、ミニマリズムを追求した設計ですが、見た目的に思った以上にミニマリズムなので、その点は、ぜいたくに慣れた感覚からすると、昔のシトロエン2CVなどのような、ストイックさも感じられます。とはいえ、ひたすらストイックな1940年代の経済車2CVと比べ、洗練された意匠を工夫しているのが、ボルボ的だし、現代的でモダンです。EVだから仕方ないとはいえ2CVのような低価格車ではないので、内装デザインにこだわるのも当然かもしれません。
ハーネスの必要なスイッチ類やスピーカーなどをなくしたドア。これらによって軽量化も追求したうえ、見た目が非常にシンプルで、スペース効率も優れます。
ドアハンドルはリサイクルアルミ製。非常にシンプルなデザインです。ミニマリズムの結果と思われますが、やや細身なのが気になりましたが、機能上問題ないので、これでよいのだろうと思います。周囲のトリムは、天然素材の亜麻の繊維で、格子状に織られたものです。
亜麻の繊維のトリムは、ダッシュボードにも使われています。このほかシート表皮もウールです。
亜麻の繊維のトリム(右)と、ウールのシート表皮(左)の、原料のサンプル。
コックピットのデザインはとにかくシンプル。ぜいたくなデザインに慣れた人間にとって、ちょっと寂しさも感じますが、文明の地球環境への負荷が限界をきたしている現代としては、こうあるべきだというのは理解できます。このシンプルさを、心地よく感じさせるのがデザイナーの仕事ですが、100%成功しているかは、短時間試乗ではなんともいえませんが、ひとつの答は出しています。最新のミニなど、ほかのブランドでもこういう方向性は見られます。今後こういうシンプルさに慣れていくのかもしれません。
最近のクルマの動力の次世代化については、コストパフォーマンス以外、正直どれも差はないともいえますが、このクルマのような、車体でのエコの追求は、デザインで個性も表現できるのでおもしろいと思います。なにより時代のニーズに応えたクルマです。ただ、サステナブルを追求する志であるなら、動力性能ももっと“スローライフ”なものであってほしいとは思います。なぜそうしなかったのか、理由はわかりません。なにとはもあれ、EX30は興味深いクルマと思います。
(レポート・写真:武田 隆)