1月に開催された東京オートサロン2025。今年もHKSのブースは見応えがありました。とくに興味深かったのは、カーボンニュートラル燃料です。開発者に話を聞きました。
いわゆる“チューナー”としては非常に高い技術力のHKSのブースは中身が濃く、充実しています。今年は実車としてはGRヤリスのほかに、シビック・タイプRなども展示されていました。
とくに見応えがあるのはチューニングパーツの展示。そのラインナップに圧倒されますが、これはGR用のパーツコーナー。
GR86用のエンジンブロック。もちろんスバル製のFA24エンジンで、BRZにも搭載されているもの。トリプルタンブルのピストンを使用してノック限界を高めており、ピストン冠面が複雑な形状なのがわかります。高出力化・高過給化のために、オープンデッキからクローズドデッキへと変えて、剛性を強化しています。
こちらはGT-RのRB26エンジン。600psの高出力を目標としながら、燃費も追求するというもので、圧縮比はなんと17まで上げられています。その高圧縮比を可能にしたのは、カーボンニュートラル燃料でした。
昨年も展示がありましたが、HKSではレース向けのカーボンニュートラル燃料(CNF)を開発しており、市販化が近いようです。カーボン・ニュートラル・レーシング・フューエルから、HKS CNR FUELを名乗っています。
開発担当者に話を聞くことができました。CNR FUELは、バイオエタノールとのことです。バイオエタノールの特性として、耐ノック性が高く、そのため圧縮比を上げて高出力を追求できるのだそうです。デメリットとしては、極寒時のエンジンの始動性がガソリンより悪いそうですが、サーキットではそこまでの状況はないから、問題にはなりにくい。これらのことから、バイオエタノールのCNFは、レース用に向いているとのことです。
ただし、100%バイオエタノールだと、酸素含有率の問題などで、FIAの規定に合わず、FIA公認のレースに使えるようにするのは、ちょっとハードルがあるそうです。現在、国内ではスーパーGT、スーパー耐久などでCNFが使用されていますが、少なくともガソリン代替のものは、100%バイオではないのだろうと思われます。スーパー耐久でスバルやトヨタなどが使うP1 Fuels製のものは、バイオ燃料と合成燃料の混成だと以前に聞きましたが、合成燃料で成分を調整しているのでしょうか。ちなみに、P1 Fuelsはドイツのメーカーで、WRCなどでも使われています。
HKSのCNR FUELでは、海外の製造者からバイオエタノールを購入し、そこにいろいろ添加して、必要な性能を実現しているようです。製品としては3種が開発されていて、「CN85」、「CN100」、「CN100W」があります。CN85はエタノール85%、CN100は100%です。WはWater、水を添加しています。
水を加えるのは、耐ノック性を上げるためとのこと。水はエタノールよりも気化潜熱が大きい、つまり気化する時に温度が下がるので、ひいては耐ノック性が向上します。ちなみに気化しやすいのは、ガソリン、エタノール、水の順です。
バイオエタノールは、金属を腐食させるので、エンジンにも対策が必要です。とくにE100の100%燃料であれば、なおさらです。ただ既存のエンジンでも、必要なパーツを交換すればよいので、使えるとのこと。
もちろんコストはかかります。また一般道を走るには、やはり認可が必要で、クローズドコースでの使用が現実的とのこと。モータースポーツの場合は、生活用車両ほどは、コストに対してシビアでないのはあります。モータースポーツでもエコは重要で、レースカーの電動化はハードルが高いので、CNFは現実的な対応策になります。たとえばWRCは今年からモーターを外して純エンジン車になり、CNFだけでカーボンニュートラルへの対応としています。
CNFも万能な解決策ではありません。CNF製造や輸送に、エネルギーが使用され、CO2は排出されているはずです。ただそれは、EVでも同じです。万能な特効薬の解決策などはなく、適材適所で技術を採用していくしかないのが現実です。
少なくともモータースポーツの分野では、CNFが現実的な対応策になるのは間違いなさそうです。ここ最近、EVに邁進して行き詰まったドイツを嘲笑う風潮が日本にありますが、CNFへの取り組みもドイツが進んでいるようなので、笑っていられません。HKSの取り組みに期待する次第です。
(レポート・写真:武田 隆)