EJ20搭載 スバルWRX STI試乗記

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EJ20エンジンは、2019年をもってついに終了です。最後のその搭載車両WRX STIの印象を記します。

EJ20エンジンは、初代レガシィに搭載されて誕生。EJ型はEJ20以外にもさまざまな排気量がありましたが、モータースポーツにも使われるハイパフォーマンス・エンジンの役は、もっぱらEJ20ターボが担い、30年間進化を続けてきました。

広報車をお借りして走ったのは2017年12月のことで、同年5月の大幅改良を受けたあとです。グレードはタイプSで、19インチタイヤやビルシュタインダンパーがおごられるモデルです。

エンジンをかけると、発する音が同じWRXでもFA20を搭載するS4とはまるで異なります。エンジンに火が入った瞬間から、刺激的なサウンドが車内に満ちて、武闘派車両だということが理解できます。

こちらはWRX S4。車体はまったく同じですが、乗り味はジェントル。エンジン出力も300psでほぼ同じですが、こちらは刺激的ではなく、スムーズ、静かです。車体側の遮音も違うかもしれませんが、エンジン自体もスムーズという印象です。ちなみに現時点ではFA型エンジンはモータースポーツには使われていませんが、潜在力としてはいつでも使えるでしょうと、エンジン開発の方は言っていました。EJ20のあと、どの型がモータースポーツ用に抜擢されるのか、次に出るといわれる1.8リッターになるのかもしれませんが、ノウハウが蓄積されているので、当面はEJ20は競技分野で活躍し続けるのでしょう。

S4のFA20ターボは、低速トルクも十分でレスポンスも悪くなく、刺激がなかろうとも、走りやすいよいエンジンですが、ただしやはりCVTなので、根つめた走りをしようとすると、もどかしくなります。リニアトロニックは、ある程度までは十分にスポーティーな走りを支えますが、つきつめると最後はやはりキレがなく、タイムアタック的な走りにはやはりふさわしくないと思います。

そこへいくとWRX STIはまったく刺激的です。同じWRXでも別物といってよい印象で、本物のスポーツカーだなという緊張感に満ちています。MTということだけで、操作にストレスがありません。現代的なロングストロークのFA20と違い、ショートストロークなうえに回転系の軽いEJ20は、やはり高回転型。6000rpmぐらいから音質はやや渋くなる感じもしますが、8000rpmのレッドゾーン付近まで勢いにのったまま一気に回ります。もともとの素性が備わるうえに、研ぎ澄まされてきた迫力があります。

ただこの能力を使いきるのはシーンが限られます。本当のタイムアタックならレヴリミットまで回すにかぎるのでしょうが、一般道で走るには、5000rpm程度でシフトアップして、シフトチェンジを楽しんだほうが身のため?。そのうえに加速をハーフスロットルでやっても、十分刺激的な走りを堪能できます。

ヒールアンドトウでシフトダウンをすると、シャンッと言って鋭く回転がが上がり、気持ちよいだけでなく、走りやすい。ブレーキ自体も極めて優秀です。ブレンボの6ポットですが、強力なGで制動するうえに、微調整もしやすく、なおかつ、コーナー中ほどで踏力をゆるめた状態でヒールアンドトウを行ってもぎくしゃくせずにできます。評価の高い別のS社のFFスポーツがそういうシーンでカックンとしてしまうのに比べると、スバルは開発者がスポーツ走行の実際を当然わかってクルマ作りをしているのではないかと思います。

このブレーキはすばらしいのひとことで、ブレーキだけでも欲しい(笑)。エンジンもすばらしいけれど、ブレーキも。とくにわかりやすく感じられるのはこの2点ですが、万事こんな具合にクルマ全体で、リアルスポーツとしてつくりこまれているといえそうです。

減速Gは強力で、パッドの音なのか、タイヤなのか、フルブレーキをするとボ〜という音が、、。下りでややハイペースで走ったあと、こげくさい匂いがしましたが、効きには影響がないようでした。

ブレーキといえば、サイドブレーキもあります。今どき貴重なハンドブレーキです。試しに一度ちょっと引いてみました。もちろんサイドターンする意気込みはないですが、すぐに後輪がロックして、わずかですが“ちゃんと”滑ったようです。これはたぶんやはり、サイドターンしやすいようにセッティングしてあるのでしょう。ちなみにルノースポール車でも同じようにやってみたら、あ、効くなという印象で、これはやはり競技用に配慮しているのではと思い、日本のスタッフに聞いたところ、そんなことはないはずと言われました。初代インプレッサSTI以来のこのリア駆動を解除して効かせるサイドブレーキは、サイドターンを4WDでもクラッチを切らずにできるもので、完全に競技用のスペックです。

ステアリングはけっこう重めです。フィーリングにこだわって今どき珍しい油圧のパワステを使っています。今や電動の性能が向上してしまったので次作では油圧はもう使わないと思いますが、たしかにフィーリングはダイレクト感があり悪くない。ただし、低速では重く、高速では逆に軽くなりやや不安を感じました。ステアリングの重さは、センターデフのセッティングを変えることで、変化するので、一概にはいえませんが、もしも電動であれば細かい制御ができるので、重さの変化は常に最適にできるはずです。

低速での重さは、タイトコーナーでコーナリング中に握る力を必要とします。ステアリングを切りながら左手を離してシフトチェンジをするような場合、片手でステアリングを保持するわけですが、不用意な位置では安定して保持できないような感じです。基本に立ち返ってしっかり、コーナーに合わせてステアリングのさばき方を考える必要があるようです。

センターデフはDCCDですが、ロック率を変えて、前後トルク配分を前寄りにするか、後ろ寄りにするか選ぶことができます。これはセンターコンソールの手の届きやすい位置にスイッチがあるので、走行中もブラインドで操作ができ、状態はメーターパネル内に表示されます。オートのモードでも前寄り(プラス)と後ろ寄り(マイナス)が選択できますが、マニュアルだとさらに細かくプラス、マイナスを設定できます。

簡単にいうとプラスだとFFに近くなり、マイナスだとFRに近くなります。ドライビングの状況に合わせて選択できるわけですが、好みで言うと、このとき走ったような舗装の山道や首都高速では、プラス側のほうが、よいかなあという印象でした。単純にまず、マイナスだと高速域で軽くて過敏すぎるのかやや不安感があり、実際はともかく直進時でもある種頼りなさを感じました。

コーナリングでも、プラスにしたほうがアクセルオンオフに対して反力がステアリングに即座に伝わるので、グリップの状態の把握をしやすいと感じます。FF車に近い感覚で、そのぶんコーナー出口で踏んだときにアンダー目になりやすいのですが、限界ぎりぎりでなければステアリングを切り増したりアクセルワークでちゃんと曲がるだろうという感じです。公道ではこのタイヤのグリップ力に余力がなくなることはまずなさそうですし。

競技シーンでどのモードが使われているのか、わかりませんが、ようはアクセル全開時間を多くとれるほうがよいわけでしょう。進入で姿勢をつくるようにしさえすれば、あとは前でひっぱって早く全開にできるほうがよいようにも思いますが、、。

マイナス側だと、ステアリングインフォメーションがない感触で、それはFR車と同じかとも思うのですが、もともと4WDとしてサスペンションのジオメトリーが決められているところに前輪の駆動を減らすと、なにか欠落してしまうのかなどと想像しましたが、よくわかりません。いずれにしても、走りこんだうえで、自分に最適なモードがだんだんわかるのでしょう。

実はこのときは、山道ではマニュアルでマイナス側に最大に振って走りました。数日前に雪が降った後だったので、路面に雪は残っていないものの、融雪剤がまかれており、かなり慎重に走ったので、残念ながらクルマの真髄はわかりませんでしたが、上りのコーナー出口では、4WDならではの挙動が出ました。プッシュアンダーとテールアウトと、FF的な前が巻き込む挙動の、3つが一度に出たような不可思議な動きで、これはやはり慣れが必要だと思った次第です。

乗り心地については、硬いのは硬いにしても、かなりしなやかでもあります。硬いために細かい上下動は常にありますが、とくにスピードに乗ってくれば、段差越えなどもよくいなして、しなやかです。ボディ剛性が盤石で、ダンパーもよく働くのでしょう。S4のほうが上下に揺すられる感じがないので、快適性は高いですが、STIでも上質感は同じくらいある感じです。ただし、音は騒々しいですが。

結論として、日本では、いや世界でも今や稀有なリアルスポーツ車です。本当は車高の低いスポーツカーの車体ならば、さらに走りは向上するのでしょうが、これが日常の居住性や使い勝手はまったく、実用的なセダンとしてあるのがよいところです。後席もまったく実用車として合格で、ただしそのために、スタイリングはややずんぐりしています。

次作では、おそらくさらにボディは、迫力を増す外観になりそうな予感です。S4との差別化があるのかも気になります。競技に直結したモデルということでは、ますます貴重になる状況ですが、ただし、最大出力に関しては、実は308psというのは、世界的におとなしい部類に入るともいえます。

もちろん実用上は、300psでも公道ではほとんど解き放つことができない手に余るパワーです。STIにやや似た立ち位置のルノースポールでも、メガーヌもアンダー300psをキープしていますが、あちらはFFの2輪駆動です。今のご時世セダンの高出力モデルが350psくらいあっても、驚きはしません。とはいえ、本当に走りを極めるなら、競技では別ですが、使いきれるパワー程度あればよいと思うので、300psで十二分でしょう。

次作は新世代エンジンとなり、乗り味もさらに洗練されるのでしょう。高回転まで回る圧倒的な痛快さは、なくなるかもしれませんが、低速から大トルクを発して、速さとしては現状を凌ぐことになるのかもしれません。

もはや中古でしか買えなくなるわけですが、特別なクルマなので、値段は下がらないのかもしれません。なんといってもEJ20はもう新車では買えません。個人的には300psで4WDとなると、おいそれとはクルマの能力を使えないので、もうちょっと限界の低いクルマ、たとえばBRZのほうに惹かれます。ただWRX STIは、ゆっくり走っていても特別感に満ちています。おとなしく日々を過ごしていても、満足感を得られるのではと思います。

(レポート・写真:武田 隆)

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