少し前になりますが、BMWのM850i xDriveクーペに試乗した印象です。
BMWのクーペは下から2、4、6(今はグランクーペのみ)とあり、上に行くほど全長が長く、ボディラインが優雅になります。その上に加わった8シリーズのクーペ。斜面がなだらかになりすぎて山がないほどと言ったら大げさですが、古典的な2ドアクーペスタイルとしては、相当滑らかなルーフラインです。そのいっぽうで下半身はけっこう筋肉張った造形になっています。
念のためと思って確認すると、6シリーズの2ドアクーペよりは8のほうが全長は短いようです。全高はわずかに8のほうが低い。8はキャビンが小さいということなのでしょう。
何台も並ぶとルーフのラインが際立ちます。ルーフを低めたチョップドルーフかと思うくらいキャビンが小さく低く見えます。全高は1345mm。
リアビューはこんな感じ。ほかのBMW各車と共通性のある意匠ですが、幅が広く感じます。全幅は1900mm。この全長で後席居住性をわりきっているので、トランクルームは奥行きがあり、かなりの広さです。ただ開口部はやや小さめです。
後席はヘッドルームが十分とはいえず、座高があるとちょっとかがむ必要がある感じ。足元も十分とはいえません。全長4855mmあるのに、いくらクーペとはいえ、後席のことよりスタイルの美しさをつらぬいた。6のクーペも同様なので、まして8では当然ということでしょうか。
大人のスポーツクーペの内装です。価格は1700万円超で、いたずらな豪華さはないものの、上質です。ちなみに下のグレードだと1200万円台から。ステアリングはかなり太めです。BMWのMスポーツのステアリングはソフトスキンが良好ですが、やや太めで、このクルマはまたことさら太く感じました。
シフトノブはクリスタル細工で、高級感があります。ドライブモード変更のスイッチがドライバーから近い位置に並ぶので、操作はしやすい。
エンジンは4.4リッターのV8ツインターボ。最大トルクは750Nm、最大出力は530ps。さすがにパワフルで踏み込んだときの加速は相当なもの。ほぼ2トン(1990kg)の車重をものともしない。V8はかなり気持ち良い音で回ります。モードによっては迫力の音を発しますが、車内では音量は静か。ロードノイズもカットされている。ただ路上でほかのクルマが加速するのを聞いたら、相当な音でした。もちろん走行モードしだいにしても、雰囲気だけのクーペではないということです。
それは走ってもわかります。基本的には快適で、コンフォートモードでは滑らかで上質な乗り心地。ワインディングを走るにはスポーツモードのほうがアクセルレスポンスもよく、ステアリングも安定します。
コーナリングは非常に安定しており、ロールもほとんどしないような感覚。いっぽう低中速コーナーで意図的に早くステアリングを回してみると、そのまま鋭く曲がっていきます。強く曲がるので、なにかデバイスが付いているなと感じましたが、違和感というほどではない。ドライバーの意図を判断してぐいぐい曲がってくれるようです。
「インテグレーテッド・アクティブ・ステアリング」が、前後輪の操舵量を状況に応じて調節しているようです。4WDに加えて4WSも装備、アダプティブダンパーに加えて、電子制御スタビライザーを備えています。これらによって、大柄な車体にふさわしい優美さと、より小型のスポーツモデル並の俊敏な動きを、状況に応じて演じてみせます。若干の人工的な動きは感じましたが、あくまで微妙なレベルで、たぶん乗っていると感じなくなるのでしょう。
さすがに、狭くタイトに曲がるルートでは車体が大きすぎると感じましたが、曲がること自体は不得意ではない。ただこのあとに乗ったZ4のほうが、曲がる楽しさはさすがに上回っていました。
8シリーズにはM8も加わり、M8はレースでも活躍しています。先代の8シリーズはコンペティションとは無縁で、BMWとしてはじくじたる思いだったそうで、今回の8ではM8 GTEが早くからルマンなどに参戦しています。
(レポート・写真:武田 隆)