JAIA(日本自動車輸入組合)の主催する試乗会で、乗ったクルマのレポート。今回はテスラ・モデル3。アウディ e-tronとの対比が印象的でした。
試乗したのはモデル3でもいちばんベーシックな「モデル3 RWD」。駆動が4WDではなく、電池搭載量も抑えたモデル。価格は479万円。
セダンっぽいイメージですが、ファストバックと言ってよい流線型です。ルーフは横から見ると見事なアーチ型で、今でいえばプリウス、昔でいえばシトロエンGSなどと立ち位置的に近い、先進的量産車といえると思います。もちろんそれぞれ流儀はだいぶ違いますが。
外観も先進的ですが、なにかと驚くのはやはり室内。この車両のシートは革装の白で、この白が輝くほどの白さ。SF映画の宇宙船?のような未来感。汚れが避けられないとは想像しますが、それをさしおいても選ぶ人は選ぶのでしょう。特別感があります。
ルーフはガラス張りがテスラの定石。前後2枚のガラスです。着座位置は、乗った印象では低く感じましたが、電池を床に敷いているぶん若干高いはずで、薄いガラスを使うことでヘッドルームを稼ぐ意味合いがあると思います。しかし着色ガラスの色が思った以上に濃く、冬場では当然ながら太陽光の熱はまったく影響なしでした。
外から見るとこんな感じ。リアウィンドウがルーフまで延びています。
前側はウィンドシールドとルーフは別ガラス。外装色が黒ということもあって、ガラスルーフであることは外からは気づきにくい。
ルーフも含め、窓ガラス類は最新の車両では、防音に優れる二重ガラスになっているそうですが、初期のモデル3はそうでなかったとのこと。モデル3は初期には北米フリーモント工場製で、今は日本に入るのは中国製になっています。元トヨタ&GMの工場を買いとった米国工場より、新規に建設した中国工場のほうが、専用設計なので設備が充実しており、品質なども向上しているのだとか。
スタッフの話だと、同じモデル3でも随時アップグレードされており、極端なことをいえば船便がつくたびにどこかしら新しくなっていたりするのだそうです。
シンプルとはこのことだ、というくらいシンプルな、モデル3の内装ですが、前回乗ったときより、たしかに全体的に品質向上しているような感じはしました。
それにしてもメーターパネルや操作スイッチは皆無で、タッチパネル式の大きなモニターがあるだけ。既存の自動車メーカーだと、ショーカーならやってみるかもしれないけど、量産車でやることはまずありえない。
宇宙からやってきて地球の常識にしばられずにつくったのがこのデザインだという感じ。スピードメーターがないですが、今回乗ったときは、モニター画面の右上の角に、速度を示す数字が表示されていました。「用は足りるだろ」といわんばかりで、笑うしかない明快さです。
車体前後には荷物スペースが確保されています。この車両はモーターはリアだけだし、EV専用シャシーでスペース効率が当然追求されています。スペース効率はテスラが重視しているポイントのようです。乗り物なら当然ともいえますが、きっと宇宙船設計でも重要なポイントなのでしょう。
さて走った感想ですが、やはり印象的です。基本的に十分洗練されています。足回りはかなり硬めですが、ボディ剛性が十二分にあるので、不快感は感じません。
ロールせず、また重心が低い印象なので、ゴーカートのような感覚もあります。ガラスの見切りが低いようで、しかもガラス面積が広いので、ガラス張りの上屋を持つゴーカート、という感じです。ルーフもガラスなので、視界の開放感は際立っています。
動力性能も印象的です。テスラでおなじみの、大トルクによる圧倒的な発進加速は健在で、やはり速いクルマです。そのいっぽうステアリングもかなりシャープです。走行モード選択がおそらくできたはずで、どのモードだったのかは確認しませんでしたが、とにかくかなりクイックに反応します。
あたかもスイッチのようにスパッと曲がり始めますが、ドライビングには問題がなく、むしろレーシングドライバーでこのクルマを高く評価する人もいるようです。ただ、足周りも含めて、動きのスムーズさを味わえる、アウディのような洗練の追求という作法とは違い、やはりストレートな感覚でつくっているという風に感じます。物理的にまったく問題ない。ただし既存の自動車界が積み上げてきた文化とは違う次元で開発をしている。そんな感じです。
テスラはモータースポーツはせず、距離を置いているようです。おそらくイーロン・マスク氏の哲学なのだと思います。もしもレースに取り組んだりしたら、もうちょっと熱っぽさとか、油臭さや、世俗っぽさが出てきてしまうのでしょう。宇宙船じみた明快な未来感は、熱いレースとはなじまない。
ただスタッフによると、マスク氏は性能が優れていないのは好きでないそうで、そのため圧倒的加速力も与えているのだそうです。
スタッフによると、テスラの大きな特色は、コンピューターも自分でつくっていることだそうです。ようするに、クルマ界のアップルのようなものです。車載コンピューターは、もちろん自動運転時代にいっそう重要なもので、テスラの強みです。
アップルはスマートですが、テスラのほうがいっそう前衛的な気がします。なにしろ宇宙に行っています。通信状況が危機になったウクライナに対し、マスク氏が即座に人口衛星からの電波を提供したことがニュースになりましたが、やっていることのレベルが違う‥。
今回アウディe-tronと同じ時間枠で比較試乗できましたが、乗ったその場の印象では、値段も違うとはいえあきらかにアウディが洗練されていて、既存の常識からすれば、クルマとしては間違いなくよくできていました。評価しない人はしないとも思いますが、しかしやはりテスラの世界観は特別で、カリスマ性はアウディの上を行くようにも思います。
(レポート・写真:武田 隆)