フォルクスワーゲンT-Crossの感想です。合わせてT-Rocについても記します。どちらもフォルクスワーゲンの新世代クロスオーバーSUVですが、その印象はだいぶ異なります。
T-CrossはポロのSUV版的な成り立ちで、ボディサイズやサイドのプレスラインなどにポロとの共通性が感じられますが、ボディは完全にオリジナル。T-RocがVWとして新鮮味があるのと比べると、前からあった兄貴分のティグアンやトゥアレグと、それほど大きくは路線が違わない印象です。
フォルクスワーゲンとしてコンサバといえばコンサバですが、最近のコンパクトSUVでよくある漫画じみたようなデザインになるよりはよいかもしれません。そもそもフォルクスワーゲンのブランドの立ち位置がコンサバであるわけです。
とはいえ、室内はこんな感じで、なかなか若づくりをしています。造形としてのデザインはシンプルですが、加飾には凝っています。外装もそうですが、色でカジュアルさを演出している感じがします。この車両の場合はボディカラーは地味ですが、ホイールがこの内装と同じオレンジです。
とくにいい色だと思ったのは、シートです。ヨーロッパ的な趣味のよさを感じます。機能的にもよく、どっしり安定して座れるうえ、腰がフィットしてサポートされる印象でした。
後席はなかなかの広さです。ヘッドルームは十二分で、膝スペースもかなり余裕があります。ただアップライトに座らせるので、姿勢を崩して座るとそれほど足元には余裕はないとも思います。
荷室も十分な広さがあります。ようするに、このボディサイズとしては、実用性は十分ということです。FFだけだからということもありそうですが、床面もかなり低くなっています。
エンジンは116psの3気筒直噴ターボ。トルクは200Nmです。車重が1270kgと軽めということもあり、けっしてトルクフルではないですが、よく走ります。大変気持ちのよいエンジンだと感じました。高回転までストレスなく回るわけでもないですが、ちょっとよくできたV6エンジンのような音で、エンジンとしての気持ち良さがある。3気筒特有の音ですが、音質をうまくコントロールしているのか、とにかく走りが楽しくなる感じです。
トランスミッションは7速DSGで、ノーマルモードだと街中をふつうに走るかぎり、1800rpmぐらいでシフトアップして、2000rpmまで上がりません。Sモードを選ぶと今度は2000rpm以下には落ちず、2000rpm台で変速していきます。
今回の試乗は、都内と郊外の田舎道を走っただけで、山道は走れませんでしたが、道がすいていたので、快適に走れました。
足回りは比較的硬めで、ふつうの凸凹はうまくいなしていきますが、ちょっと角のある段差などは、突き上げがきます。後席は前席より硬さが目立つようです。ただ、矛盾しますが、しなやかさのある足でもあります。車高(地上高)が高めなぶん、ストロークがあるようで、よくサスペンションが動きます。バネ感の強いやや独特なフィーリングで、快調に走ります。車重が軽く、エンジンもいい感じなので、走りはかなり楽しさを感じます。これはいい!、と思った次第。ボディ剛性もしっかりしています。
これは2月のJAIA試乗会で乗ったクルマ。色が鮮やかです。ちなみにタイヤはどちらも18インチでした。全長は4115mm。
いっぽうこちらはT-Roc。全長4240mm。こちらはゴルフのSUV版的な大きさです。基本的なボディ形状は、ある意味ではT-Cross以上にコンサバな感じで、ウェッジシェイプの要素がほとんど感じられず、スピード感のないおとなしいスタイリングと思いました。SUV的に前後タイヤまわりをふくらませたりして足腰を強く見せたりしてはいるのですが。
このクルマは、しかしT-Crossよりは、こだわったデザインのようです。VWとして今までにない感じがあります。ルーフに沿ってシルバーのモールがデザインされています。また、けっこう多くの人がそう思うようですが、とくにテールゲート付近の、造形の美しさが目立っています。外板のプレスが精緻で、いかにも高品質です。ホイールのデザインもタフさがあると同時に、スタイリッシュに見えるものになっています。
基本的には保守的な落ち着きがありながら、しゃれたところがあり、高品質さを感じさせます。ダイナミックでときにはSF的なくらい奇抜なデザインのものが多い、最近の小型SUVクロスオーバーとしては、意外に希少な存在といえるかもしれません。
内装は、外装以上に意外性はなく、フォルクスワーゲンらしいつくりです。室内は客室も荷室も広く、実用性はこのサイズとしては優等生の部類に入ります。
このクルマが大人しく感じたのは、走りからの印象が第一でした。2リッターターボの4気筒ディーゼルは、最大出力が150psと抑えめです。トルクは340Nm(34.7kgm)もあるのですが。その数値はともかく、踏みこんだときの反応が遅く、加速するまでに時間差があります。もちろんたいした遅れではないし、いちど加速を始めれば、甚大なトルクが湧いてきて、低いギアへのキックダウンも必要ないくらいなのですが、少なくとも標準モードで走っているかぎり、ダイレクトにきびきび走るという感じからはほど遠いフィーリングです。なので、活発な走りに重きを置いていないタイプのクルマなのだという解釈になりました。それはそれで悪くないですが。
車重が1430kgと、やはりこれもFFにもかかわらず、エンジンのためもあって重めです。乗り心地に関しては、やや硬めで、可変ダンパーが付いているし、こういうキャラクターなら、もう少しソフトにしたほうがよいのに、とは思った次第。
どっちがどっちだったか、しょっちゅう車名を間違えそうになる、この新しいSUVの2車ですが、性格はだいぶ違うというのがおもしろいところでした。
(レポート・写真:武田 隆)