GPSカーナビゲーションの歴史について調べると、1991年にホンダ2代目レジェンドにオプションで搭載されたとある。著者とカーナビゲーションの関わり合いは、同じ頃の1991年発売の10代目コロナ(写真1)に向けて部品メーカーが自社で開発した5インチナビゲーション機器をオプション装備として販売してもらえないか、と提案に来たのが初めであった。
会社のモニター車に取付けて走行したところ、当然ではあるが非常に便利なものであることがわかり、特に上司のチーフエンジニアが気に入り熱心に開発を進めるように指示された。今までは目的地に行くのに何度も停車して地図を見ながら探し探し走行していたことが、ナビゲーションの画面を見てその方向に進めばよいということに衝撃を受けた。
しかし、部品メーカーへの目標コストが厳しく、販売目標台数が少なく採算が合わなかったのか、それともナビの世界は日進月歩で5インチナビゲーションの限界を見越していたのか定かではないが、製品化には至ったものの、コストのこともあってか魅力的な製品にはならず販売は伸び悩んだと記憶している。
この頃は、紹介された部品メーカーだけでなく数多の会社がナビゲーションの将来性を見越して見込んで開発を進めていたらしく、その後の進歩たるや驚くばかりであった。
著者の開発していた車においても、次の1996年発売の新型コロナプレミオ、カリーナでは純正ナビゲーションがオプションで設定され(写真2)、2001年発売の新型プレミオ、アリオンにおいてはインパネにカスタマイズされスタイリングが洗練された純正ナビになり(写真3)、販売店オプションも数種類準備された(写真4)。
マルチメディアディスプレイという機器をご存知だろうか。ナビゲーションと同じ大きさのディスプレイを装備し、ラジオの選曲やバックガイドモニターとしての表示機能を保有する機器である。プレミオ、アリオンという車は、カローラからの上級移行の役目があり、また良い意味でカローラは競合車でもあった。そのカローラが当時マルチメディアディスプレイをオプション装備とする企画を行っていたので、著者はチーフエンジニアとしてカローラに負けるわけにはいかないと思い、共通部品として用いてそのディスプレイを2007年発売の新型プレミオ、アリオン(写真5)で標準装備にした(写真6)。
その他の狙いとしてお客様がナビゲーションをオプションで購入してもらう時、マルチインフォメーションディスプレイであればそのオプションのための差額が小さいため、たくさん購入してもらえるのではないかということも考えた。もちろん純正ナビゲーションも準備してあり、販売店ナビゲーション装着も花盛りの時代であった。これらのナビゲーションはいずれも30万円前後で、自動車そのものの値段が180万円ほどの時代で、ナビゲーションの値段は車の値段に比較して高価で、車の値引きを考えると約20%にも相当したが、それでもよく売れた。
2000年代の販売の現場では、お客様は自動車本体の価格に対しては強力に値切るが、ナビゲーションについてはそれほど値切ることもなくそのままで購入するという不思議な購入形態が続いた。
エントリーカーであるヴィッツなどでは、お客様は100万円の車に対して必死で10万円の値引きを販売店員との長い交渉の末勝ち取るが、ナビゲーションの20〜30万円は特に値切りもせず買っていき、販売店の方が人間の心理は不思議なものだと言っていたことを思い出す。ナビゲーションの販売利益が自動車本体の販売利益を上まわる例である。
ところで、私が5年半使用した愛車ヴォクシーは今年に入ってナビゲーションが故障した。ハードディスクに音楽CDを読み込ませたところ「ハードディスクを読み込んでいます」という画面が出た後電源がOFFになり、その後また同じ表示が繰り返される。どのスイッチを押してもその症状は変わらない。回復モードのための方法があると思い、取り扱い説明書を読み返しても全くそのようなページは見当たらない。
純正ナビゲーションなので自動車会社のお客様相談室に聞くと、販売店が全てフォローしているのでそちらに聞いてくれと言われ、販売店に故障が治らないか聞きに行くと、ナビゲーションは販売店の修理工場では治らないので車を引き取り、部品を外してナビゲーションの部品メーカーで修理見積もりを行うと言う。見積もりのための取り外し代と送料で2万円近くの費用がかかると言われた。
純正ナビゲーションにも関わらず、販売店では修理に関してナビゲーションの取り替えることに関して、金額に見合った対応を感じることができず、正直がっかりした。自動車を購入する時、純正ナビゲーションということでアフターケアもしっかりしていると思い、27万円の大枚をはたいて装着したのであるが、この対応はどうしたものかと考えさせられる。
またカー用品のディスカウントショップに修理を依頼すると純正ナビの修理は行わないと言われ、取り替えるとなるとサブワイヤーが必要で一番安価なエントリーナビでも15万円がかかると言われた。そんな話を自分の息子にしたところ、ナビゲーションにスマートフォンで使用できるYahooナビを使ってみたらと言われ使用してみると、意外に純正ナビより使い勝手が良いことに驚く。無駄な機能がついていないため扱いやすい。また、高速通信の容量をたくさん使うのかと思いきや数十メガで少なく、スマートフォンの使用環境としても全く問題ない。
しばらく壊れたナビゲーションをそのままにし、Yahooナビ使用して車を使っていたがラジオも聞けない状態が続き、それだけが理由ではないが思い切って中古車として売却して、新しいヴォクシーに買い替えた。
2010年代に入りGoogleが「Googleマップナビ」のサービスを始めて以来YahooナビやEZ助手席ナビなどの無料サービスが出現し、車載ナビゲーションの優位性は落ちているように感じる。(写真7,8)
最近ナビゲーションメーカーの収益が減少し、経営不振が続くというようなニュースを聞いたことがあるが、これまで述べたような流れを考えれば、当然ではないかと思う。
車載ナビは確かに機能がどんどん追加され便利そうに見えるが、実際に著者自身はその機能をあまり使ったことがない。必要なお店を探したりする様々な情報を得るにはスマートフォンの方が使いやすい。トンネル内では不正確だとか運転中はスマートフォン操作ができないというような制限はあるが、YahooナビやGoogleナビの機能があれば著者にとっては十分である。
また日本の車載ナビゲーションは機能を増やして高額なものになり、世界ではガラパゴス化していると言われているし、購入して数年経つと道路情報が古くなり、地図のソフトを更新する必要も出てきてその価格が1万円以上する。一方YahooナビやGoogleナビは常に新しい地図情報が得られ、地図の更新費用など不要せある。このままでは車載ナビはYahooナビやGoogleナビにとって代わられても不思議ではない。
将来自動車会社で開発するナビゲーションはどうした方が良いかという私見を述べさせていただくと、ディスプレイはバックガイドモニターとしてどうしても欲しいため必要だが、ナビゲーションは高価であればYahooナビかGoogleナビを使いたい。
バックガイドモニターは一度使い始め慣れると、これがないと駐車場に入れるのに苦労し、どうしても欲しい機能である。そのためにはディスプレイは必要でナビゲーション機能がセットなら機能を落とした安価なものを作ってもらいたいし、地図の更新費用を無しにして欲しい。現在もエントリーナビとして安価なナビは存在するが、上級機種を買ってもらいたいのか写真3に示すようなスタイリングに考慮したものがないし、オーディオの音などもよくないものが多い。(写真9)
今から考えると目的は異なってはいたが2007年に発売したプレミオ、アリオンのマルチインフォメーションディスプレイ(写真6)の標準装備は先を読んだ仕様だったのかもしれない。このマルチインフォメーションディスプレイにプラスして、飲み物を倒れないように置くカップホルダーのように、スマートフォンを固定できる取り付け装置をインパネに設定しておいてもらえば最良だと思う。
インターネットナビゲーションの出現は、ナビゲーションの世界を変えつつある。それに伴い車載ナビゲーションを高価な価格で販売する時代は終わったのではないかと思う。
ぜひ時代の流れ合ったユーザーに受け入れられるナビゲーションの企画、開発、販売の改革を自動車会社にお願いしたい。