2019東京モーターショーに参加して

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久しぶりに東京モーターショーに足を運んだ。ネット情報で前もって聞いてはいたが、海外メーカーが出展していないこともあり予想以上に華やかさに欠ける感じがした。日本車販売店とは違い、普段は入りにくい輸入車販売店の車に出会えるのが醍醐味であるのに、海外メーカーブースが無いのは残念だった。
展示車を見て一番感じたことは日本車の価格が随分上がっていることだ。グレードの高い車を展示していることもあるとは思うが、それにしても軽自動車で200万円を超す車がずらりと並んでいる。普通自動車になれば200万円は当然越し、300万円以上になるものも多い。
私は10年ほど前、アリオンやプレミオという車の開発を担当していたが、その頃のミッドサイズ車でも180万円ほどの車が売れ筋であった。10年前はすでに昔で、そのぐらいの価格アップは当然であり、古い人間のぼやきだと言われるかもしれないが、1990年のバブルが弾けてから20年間は、ほとんど価格は上がっていなかったと記憶する。
日本の車の販売台数が伸びないのは、やはり車の値段が高いからなのではないだろうか。世界的にも海外メーカーがモーターショーへの出品をとり止めているとは聞くが、販売台数が伸びず日本の自動車市場が活性化していないことも一つの原因なのかもしれない。
2018年5月のブログ「自動車の売れ行きについて」にも記載したが、日本の労働者の実質平均賃金は減少しているのに対し、自動車販売価格はここ数年で急激に上がっていることからみても納得できる。
輸入車というと高価なイメージがあるが、レクサスなどの高級日本車を見た後でベンツのブースに行くと、案外安いなという感覚になる。それだけ日本車が高くなってしまったということだろう。
筆者も財力に余裕があれば購入したいと目にとまったのが、ベンツCLAクーペ(写真1)である。価格は472万円〜で、同じ大きさ、クラスのレクサスISより安い価格設定になっている。スタイリングは好みがあると思うが、ベンツ独特のアイデンティティーを持ちながら、先進性を備えたものになっていると思う。
計器類も全面液晶パネルの先進的なもので、重厚感を持った中に先進性を含有しているという高い価値観が感じられた。
試乗したわけではないが、日本車とは違う優れた走行性能を持っていると予想され、この値段なら、日本の高級車を買うより価値が高いと感じる人も多いのではないかと思う。日本の自動車メーカーも輸入車に価格で負けない価値の高い車を企画してもらいたいものである。

日本車で優れていると感じたのは、次期ホンダフィット(写真2)である。人気があるのか一番人だかりが多く、人がいない写真を撮るのに苦労した。
外径スタイリングも内装スタイリングも、最近多い奇をてらったものではなく、小型車として誰にでも好かれそう、かつ上品に感じられるものである。
技術的に感心したのは、フロントの第1ピラーが限りなく細く設計されていることだ(写真3)。かつて筆者はオーパという車を開発した時、スタイリングを良くするため、このフィットと同じように第2ピラーを斜めに寝かせ、第1ピラーを細くしようとしたが、衝突性能のための技術力がなく、太いままの設計に至った。
その後発売された第2ピラーを斜めに寝かせた車は多数あるが、第1ピラーは太い。そのため、斜め前方視界が悪くなるのだが、このフィットはその点が解消されている。ホンダの衝突性能技術力の高さがうかがえる。
ただ少し心配なのは、この車はいったいいくらで販売されるかだ。ヘッドランプ(写真3)もテールランプ(写真4)も高級車と同じようなLEDプリズム仕様になっていたり、電気式パーキングブレーキを採用していたりと、結構コストの高いエントリーカーとは言えないような仕様になっている。できれば200万円以内の価格で販売して欲しいと願う。

今回のモーターショーには、いくつかの疑問点がある。規模が縮小しているのに、なぜ会場を2つに分けたのか。シャトルバスがあるとはいうものの、時間がかかりすぎ、ゆりかもめを使うことになり、来場者にとって不便である。1箇所でやるべきではなかったか。
また、テーマパークのようにダンスパフォーマンスを行なっていたり(写真5)、子供のウケを狙った魔女の宅急便のような乗り物(写真6)もあったりしたが、モーターショーとしては疑問を感じる。これらには人だかりはできていたが、他に見るものが乏しくて集まっていただけで、これを目的にモーターショーに来ている人は少ないと思う。モーターショーを盛り立てようとしている気持ちはわかるが、もう少し本筋を歩んだ方がいいのではないだろうか。

「じゃあ、お前ならどうするんだ」と主催者側からご批判をもらうかもしれないが、まずは現在販売している車や今後販売する車をきちんと見せることが必要ではないだろうか。
さらに遠未来の自動車ではなく、できるかぎり実現しそうな近未来の車やその技術などの展示も必要だと考える。
そんな展示もいくつかはあった。例えば、FOMM ONEの水陸両用車である(写真7)。水害があると水に浮いてタイヤを回し、ホイール形状を工夫した水かきにより、水上を進む車である。すでに、タイでは販売されていて、近年豪雨災害が多いことを考え、日本でも販売できないか検討していると聞いた。
また、今回少ない展示ではあったが、近未来に増加する団塊世代の介護に使用される、福祉車両(写真8)などももっと展示されてもいいのではないかと思う。
コスト高が問題になるとは思うが、本当に使えそうな車の材料の研究(写真9、10)なども、もっと展示されても良い気がする。

また、近い将来の電気自動車の技術展示も、もっとたくさんあっても良かったと思う。特に現在販売されている電気自動車は、500万円以上もして、庶民への普及が難しい。電気自動車のコスト削減についての将来技術なども、展示してもらえたらと思った。
その他運営面では、各社QRコードを利用して、説明を読み取るように簡素化されているが、車づくりの熱意が感じられない。
説明員はいたが、コンセプトカーや展示車の技術について質問しても、しっかり答えられる人は稀であった。やはりつくった技術者が出席して、車や技術の説明を熱く語ってもらうことが必須ではないだろうか。そうすれば来場者の技術や車に対する興味は倍増し、モーターショーとしても魅力が増すと考えるのは筆者だけだろうか。
車の販売台数が減少する中で難しいとは思うが、来場者の意見を参考に、車そのものやその技術を誠実にアピールするという原点に戻って工夫すれば、モーターショーの活性化に向けての方法はあるのではないかと思う。海外メーカーも戻ってきてくれるような企画を主催者に期待したい。

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