トヨタガズーレーシング、WRC2018年に向けて

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

WRCが2018年の開幕を迎えていますが、昨2017年11月末に行われた、トヨタガズーレーシングのWRC2017年シーズン報告会で感じたことなどをレポートします。

会場はトヨタ自動車東京本社1階ロビー。ヤリスWRCや、2017年シーズンで勝ち取った2個のトロフィーなどが置かれていました。これはエサペッカ・ラッピ選手が勝ったフィンランド戦のもの。

報告会ではまず、ガズーレーシングカンパニーのプレジデント、友山茂樹氏が、参戦決定からシーズンの戦いに至るまでのストーリーを語りました。豊田章男社長がラリーに意欲的だったのはよく知られていますが、WRCプロジェクトが始まってからさまざまに難航したとき、マシン製作とチーム運営を任せることになったTMRのトミ・マキネンを信じろと言って激励したという話は、印象的でした。上の写真のスクリーン画面は、マキネンを横に乗せてドライブする章男社長の映像。

1年間の戦績は、ご覧のとおり。参戦初年度にして、誰もが予想しなかったシーズン2勝を挙げています。友山氏は、参戦が始まる前に、初年度の2017年は準備の年だから結果を期待できるものではないと、ことあるごとにメディアに話したということでした。そこで思うのは、復帰初年度から、強気な姿勢を見せて、チーム、ドライバーを有名どころで固めたホンダのF1のことです。少なくとも今回は、ホンダF1よりもトヨタWRCのほうが、当初から賢明な姿勢で世界戦に臨んだのではないかと感じます。もちろんハイブリッドで複雑なF1のほうが、WRCより難易度は高いと思いますが、それも織り込み済みで臨むのは当然なことで。

報告会にはワークスマシン2台の4人のクルーと、チーム代表のマキネン氏が出席しました。おじぎをしているのがマキネン氏。バックの映像は第2戦スウェーデンでまさかの初優勝をしたときのもの。

マキネンは現役時代三菱で4回チャンピオンを獲得し、当時の歴代最強ドライバーとなった人物です。その走りは、同時代のライバルだったコリン・マクレーのような派手さはなく、面白みにはやや欠けるものの、速さは超一流で、かつ堅実で安定しており、まさに強いドライバーでした。はじめの頃はフィンランドの田舎から出てきた素朴な青年風にも見えましたが、いかにもスポーツマン的な溌剌(はつらつ)さがあり、とくにチャンピオンになった以降は自信に満ちていた印象がありました。

その彼が、引退後に地元フィンランドでファクトリーを立ち上げ、それを全面サポートする形で、トヨタがWRC参戦の請負人として、マキネンに任せたわけです。引退後も、自分で走ったほうがいんじゃないの? と思うくらいの走りを、時節披露したりしていますが、チーム運営者としても、やり手だったということなのでしょう。乗っても降りても、まさに勝利請負人だったと思う次第です。

マキネンはトヨタに勝利をもたらした立役者なわけですが、そのマキネンを見込んだのもトヨタだったわけです。この日のやりとりを聞いていると、淡々と話しつつ、ときにジョークを交えて話しており、まさに油が乗っている感じ。フィンランドの片田舎のファクトリーながら、世界のトヨタを相手にして活躍するというのは、並大抵ではないことです。

マイクを持って話すのは若手のエサペッカ・ラッピ選手。途中から加わりフィンランド戦で優勝しました。マキネンと同じフィンランド出身ですが、ラリー王国の最も有望な新人をチームに引きいれるというのも、地元の「有力者」マキネンなら当然できること。ドライバーを見る目も間違いないのでしょう。案の定はやくも優勝しました。

赤い帽子のこちらは昨2017年のエースのヤリ-マティ・ラトバラ選手。VW時代には非常に速かったものの、不調に終わったシーズンのあとVWの突然の撤退でトヨタに移ってきました。トヨタにしてもマキネンにしても、つくづく幸運に恵まれていると思うしかないですが、フィンランド人であることもあり、ラトバラとしても願ってもないことだったはず。トヨタでは移籍早々まさかの優勝を飾り、本来持っていた実力を発揮しました。

ラトバラ選手は、とくにVW時代、精神的にもう少し図太くあるべきと言われることもあったようですが、今回あらためてわかったのは、彼は「すごくいいヤツ」だということ。ファン代表として招かれて壇上に上がった少年に対する接し方を見ても、それがひしひしと伝わってきました。若手のラッピ選手も彼はやさしい、いろいろ学ばせてもらっていると語っていました。

会場には特別参加の形で、2018年シーズンから新加入するクルー、オット・タナック選手も登場しました。昨年までフォードで走っていたので、紹介の映像は、かつてコースオフして池にダイブした有名な一件のものが流されて、章男社長からのプレゼントという形で、ガズーレーシング特製のシュノーケルセットが贈られました。

こちらがシュノーケルセット。マキネン親分を中心に、笑顔のジョークも自然に出て、いい雰囲気にチームがあるような印象でした。突貫小僧的な走りで魅せるタナック選手は昨年選手権3位だったので、トップクラスのドライバーになったと評価されており、壇上でもチャンピオンを狙いたいと明言していました。実績的には当然とはいえ、エースのラトバラがいるところでそれを言ってのけたことにやや驚きましたが、マキネンを筆頭にチームとしても、それを前提として迎えているのでしょう。

タナック選手は、エストニア人です。オールフィンランドで固めてきたマキネン率いるトヨタのチームですが、エストニアは隣国なので、準フィンランド(?)みたいな存在なのでしょうか。マキネンに任せた結果もあって、トヨタのWRC活動は見事な展開になっていて、文句のつけようがないですが、ひとつだけ気にかかることがあるとしたら、フィンランドばかりになって、マーケティング的には大丈夫なのかなということです。

昔からよく言われるのは、ラリーは市販車をベースとし、人々の生活に近い場で行われるので、ラリーの成果は、市販車の販売に直接結びつくということです。今は昔のように単純ではないのかもしれませんが。トヨタがラリーに参戦するのは、いろいろな考えがあるのは周知のことですが、トヨタのことだから、そんなところもしっかり検証済みで運営されているのかもしれません。

2018年シーズンは、昨年チャンピオンのフォードはワークスサポートが復活し、近年体制の充実著しいヒュンダイ、昨年はやや期待外れに終わったものの復活を期するシトロエンと、どのライバルも強化されているはずです。トヨタは、2017年の参戦でデータと経験を蓄積したので、今年は勝負ができる年ということで、実際勝負をかけていくことになるようです。ライバルも強化されるし、勝つのはやはり簡単ではないわけですが、チャンピオンになる可能性は十分考えられるという状況に、トヨタのチームはあるのだと思います。2018年はWRCシリーズ自体が見ものですし、トヨタの活躍は大きく期待されるところです。写真は2018年開幕戦モンテカルロのスタート直前のヤリスWRC [ (c) Toyota Gazoo Racing WRC ]。

(レポート・写真:武田 隆)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする