燃料電池自動車の課題 その4

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7.水素コストについて

新聞やインターネットの情報をみると、水素の将来の値段や、FC車の燃料として本当に供給ができるのかどうか明確に書いてあるものは少ない。また燃料電池車を製造する自動車会社やその燃料を供給する会社は、水素供給やその価格の話になると将来性があるというあやふやな表現をするだけで、数値を示した明確な答弁を聞いたことがない。FC車の開発担当者にとってみれば、プロジェクトが続くように水素燃料に将来性があると言いたいのだろうが、正直に事実を調査していくと、大量販売する自動車の燃料として水素は適していないことがわかる。
水素は地球上に単体としてはほとんど存在しないため、人工的に作る必要がある。ただし地球の元素としては10番目に多く、水や石油などの化合物として存在する。水素は初期には肥料製造に使用するアンモニアを製造するため電気分解で作られていたこともあったが、1960年代頃から石油化学の発展と肥料の大量製造のため、化石燃料から安価に作られるようになった。現在ではその97%、つまりほぼ100%が化石燃料から製造されている。(参考資料3)
 化石燃料からの水素製造法は下記のように様々なものがある。

(1)水蒸気改質
(2)不完全燃焼改質
(3)石炭の高温処理(製鉄所のコークス製造過程の副産物)
(4)水酸化ナトリウム製造工程における副産物

このうち最もポピュラーなものは化石燃料の水蒸気改質である。
メタンから石炭まで水素分子を含んでいればどんな化石燃料でも可能であるが、水素の割合が多いメタンの水蒸気改質が最も効率が良く一般的である。その化学反応を下記に示す。

CH4+2H2O → 4H2+CO2

化学式を見てわかるように二酸化炭素CO2が発生し、現在の製造方法では水素が作られると同時にCO2が製造工場から排出される。水素はクリーンなエネルギーで地球温暖化防止にも有効だと言われることがあるがそれは誤りで、燃料電池車の周りはクリーンかもしれないが、製造工場の周辺ではCO2が排出され、地球温暖化も推進していることになる。
CO2を排出しないためには化石燃料の改質ではなく、再生可能エネルギーである風力や太陽光で発電された電気で水の電気分解を行い、水素を製造する必要がある。しかしそのためには電気分解のための莫大な設備費とランニングコストがかかる。電気をEV車にそのまま使った方が割安で、FC車はEV車の経済性に打ち勝つことはできない。
FC車とEV車、ガソリン車のカタログ燃費から算出した燃費の比較を下記に示す。(参考資料4より引用)燃料価格としてそれぞれ現在の流通価格(水素1000円/kg、電気12.16円/kWh、ガソリン129.1円/L)を使用している。

  FC車(トヨタMIRAI)  6.6円/km
  EV車(日産リーフ)     1.3円/km
  ガソリン車(トヨタプレミオ) 8.2円/km

これを見ると、EV車の燃料コストが最も安価なことがわかる。電気料金は夜間料金を使っているが、昼間料金を使ったとしても約3倍の流通価格であり燃料コストの順位は変わらない。FC車(トヨタMIRAI)の水素燃料流通価格1000円/kgは化石燃料の改質で製造された水素価格である。

それでは真のクリーンエネルギーを目指すため、再生化エネルギーで作られた電気で水の電気分解を行ない、その水素を使用した場合の価格はどうなるのだろう。参考資料5によると水の電気分解で1Nm3(ノルマル立米)(0℃、一気圧に換算した1m3のガス量)の水素を作り出すための理論電力は3.54kWhである。FC車(トヨタMIRAI)の水素搭載量は約7300Nm3であり、その水素を電気分解で作るための電力は、

7300Nm3*3.54kWh/Nm3=25842kWh

となる。EV車の計算で使用した電気料金を掛け合わせると、

25842kWh*12.16円/kWh=314239円

となり、これがトヨタMIRAIに水素を満タンにした時の燃料価格である。FC車(トヨタMIRAI)の燃費を計算すると、483円/kmで、燃費としては天文学的な悪い数字となり、水の電気分解で作られた水素は常識的に自動車には使えない。さらに電力会社は再生エネルギー電力の電気料金は高くなると言っているため電気分解による水素の値段はさらに高くなる。結論としてはクリーンで地球温暖化防止をコンセプトにするなら、現在のところFC車に未来は無い、と考えられる。水の電気分解以外に、化石燃料を使わずに水素を作り出す方法があるかどうか、その製造方法が今後の大きな研究課題になる。

参考資料3 水素の本,水素エネルギー協会,
      2008.6.30.日刊工業新聞社

参考資料4 水素自動車、電気自動車、ガソリン車の燃料価格比較!
      どの車の燃費が一番安い?
      自動車保険ガイド
     (インターネット記事)

参考資料5 阿部勲夫:水電解法による水素製造とそのコスト
      水素エネルギーシステム vol.33,No.1(2008)

8.まとめ

限られた内容ではあるが、筆者が知る限りのFC車に関する課題について述べさせていただいた。
新聞や企業の広報からは将来はFC車がガソリン車にとって代わり水素社会が来るというロマンチックな話がなされ、その未来に酔いしれそうな感じがするが、なかなか難しいことは読んでいただければわかると思う。
最も大きな課題は(1)燃料電池システムの製造コストが低減できないこと、(2)触媒などの埋蔵量が限られていて現在の自動車を全て置き換えることができないこと、そして(3)経済的に燃料として許容できるクリーンな水素が存在しない、ということに尽きる。これらの課題を解決するために越えなければならないハードルは非常に高く、現在のガソリン車やEV車にとって代わるものを創ろうとすることは、よほどの画期的な技術が発見されない限り不可能で将来性はないと考えられる。
もちろん矛先を変え限られた用途の自動車とすれば、生きる道はあるのかもしれない。例えばレースカーや希少なスポーツカーなどは可能性がある。モーター動力特性は発進時が大きいためダッシュ力はガソリンエンジン車に比べて格段に優れていて、スポーツカーとして楽しむにはぴったりの車になる。また水素燃料の注入のための時間は数分で、EV車の充電時間と比較して極端に少なく、燃料補給時間も競技の内容となるレースカーとしても適している。
FC車を開発している自動車会社にも問題がある。もともと他社がEV車を開発し販売して先を越されたため、急遽、長年開発していたFC車を販売し始めたのが主な始まりの要因であるが、慌てずに技術的な課題と可能性をしっかり検討した上で物事を進めたほうが良いのではないだろうか。そうでないとFC車開発製造に関連する企業の方々はもちろん、水素インフラに投資をされる方々にも迷惑をかける。また法外な補助金がFC車に支払われているが、政府が拠出する補助金は我々の税金である。本当に将来性のある技術に税金を使って欲しいものだと思う。そうしないと世界の最先端技術の競争で敗者になってしまうのではないだろうか。
筆者は決して燃料電池の開発を否定しているわけではなく続けることは必要だと思うが、水素事業に関連する会社、技術者は自らに都合の良いことばかりを並べたてるのではなく、その技術の内容をしっかり解析して正直に世の中に公開し、燃料電池の最適な使用方法を見直す時期に来ているのではないかと思う。

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