第43回 輸入車試乗会に参加して その1

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2020年第40回以来、4年ぶりに輸入車試乗会に参加して、その様変わりに驚いた。前回試乗の機会を得たEV車はテスラ1台だったが、今回の試乗車の半数以上がEV車で、エンジン車があったとしてもほぼプラグインハイブリッド(PHEV)だった。日本国内にいるとまだガソリン車が主流に思えていたが、世界の趨勢はEV車に変わったことを実感した。今回の試乗でEV車は素晴らしい性能を持っていることがわかり、今後のEV車への移行は自然の成り行きだとも感じた。
ここでは、試乗した車について感じたことを数回にわたり述べるとともに、EV車に乗って車の走行性能について改めて考えさせられることがあり、最後に述べさせていただきたい。
走行性能に関してはそれぞれの好みと主観が入るので、筆者の個人的意見に異論はあると思う。筆者はサーキットなどでレーシング走行も経験したことはあるが、レーサーの方のように車の姿勢をテクニックで操るような能力は持ち合わせていないこと、安定性のある車を好んでいることを考慮に入れてもらえればと思う。

1.Hyundai KONA Lounge(図1)

韓国車の走行性能は、10年前の当時から筆者の所属した自動車会社の車より優れていることは認識していたが、その差がさらに開いたと思う。非常に素直な走行性能を持った車であり、ワインディングロードでのステアリングフィールは正確で思った通りに車を旋回させることができ、急旋回しても不安定さや恐怖感は全く感じられない。車体全体の剛性が高いことが予測され、特にEV車に共通している車体中央(シート下)あたりの「どっしり感」が感じられた。ステアリングフィールが正確なことからフロントの車体剛性も高いこともわかる。しっかりしたステアリングフィールながらゴツゴツしない安定性を持ち合わせた乗り心地を持っている。
加速性能に関しては、高速道路ではアクセルを踏み込むとシートに体が押しつけられるEV車特有の加速度感が味わえ、時速70キロメートル制限の湘南バイパスではすぐにパトカーに捕まりそうでアクセル全開走行は怖い。
とにかく「走る」「曲がる」「止まる」どれに関しても、高い次元でバランスの取れた車であると言える。

図1 Hyundai KONA Lounge 外型

外形スタイリングについてはEV車全体に言えることだが、冷却が少なくて済むため大きなラジエターグリルが必要なエンジン車のようなデザインではない。EV車はそれぞれ自由で特有のフロント外型デザインになっていて、Hyundai KONA Loungeも独特のデザインになっている。過去のHyundaiとは決別し、「H」マークがなければ良い意味でどこの自動車会社の車かわからないスタイリングである。今までのSUVにはないフロントグリルを持ち、今後の方向性を予言するような、なかなかな質感が感じられるスタイリンングである。
内装(図2)は、造形として力強いSUVにふさわしい新しく格好いいデザインになっていると感じられるが、構成部品の材質からプラスティッキーな印象を受けた。インパネやドアトリムにパッドか布貼りを採用しても、せいぜい2~3万円ほどしか価格は上がらず、販売価格が489万円が492万円になっても販売に影響はなく、上質感の向上により逆に販売台数が増えるのではないだろうか。

図2 Hyundai KONA Lounge 内装

騒音については、エンジン音がしないことやピストンの往復運動によるこもり音が全くないため静かなことと、防音装備がしっかりしているためかタイヤノイズやなども小さい。
490万円くらいの価格の日本車といえばレクサスのLBXに相当するが、ステアフィールや加速性能、乗り心地などの走行性能や騒音に関しても、LBXより1ランク上の車と感じた。スタイリングや自動車メーカーの好みはあるとは思うが、車の基本性能である走行性能や加速性能を重視して購入車を選ぶユーザーの方、特に若い方などなら、多分この車の方を選ぶのではないかと思う。

2.Volkswagen ID.4 Lite(図3)

運転し始めると「さすがドイツ車である」と感じた。なんともいえない、穏やかで上質なステアリングフィールや乗り心地が感じられる車である。ただ、違和感を覚えた点がある。ワインディングロードではステアリングを回してもそのすぐに反応しない領域があり、正確にカーブを曲がろうとしても旋回遅れがあったことだ。また、ブレーキペダルを踏み込んでも遊びが大きいため、すぐにブレーキを効かせることができなかった。その2つの影響で思い通りにカーブに突っ込むことができないため、乗りにくい場面にも度々遭遇した。時速70キロメートルで走る湘南バイパスで頻繁にレーンチェンジを行う場合なども、ステアリングフィールの不感帯があるためすぐに車が反応せず、やや不安感があった。
ステアリングのニュートラル付近は反応しない領域があるとはいえ、ステアリングをさらに回せば力強く旋回してくれるドイツ車独特のフィーリングを保有している。これより車体剛性は十分に高くしっかりしていることは確かで、違和感のあるステアリングフィールもブレーキングフィーリングも、電気的チューニングにより故意に作り出されたものと考えられる。以前ドイツのアウトバーンを走行した時のことを思い出すと、超高速走行ではステアリング操作による旋回やブレーキングが敏感な動きをするより、この車のような不感帯があった方が安全に走れるのではないかと予測される。

図3 Volkswagen ID.4 Lite 外型

内装デザインはソフトパッドを多用した2トーンカラーの上質な空間を演出している。シートも2トーンカラーの革張り仕様の高級仕様で514万円という販売価格に相応しいと感じた。
それに比べて外形デザインは、コストダウンされた仕様になっている気がする。タイヤホイールは材質が正確にはわからないがキャップを被せたスチール仕様に見えた。窓サッシは黒のテープ貼りで514万円という価格帯であればアルミホイール、クロームメッキ風窓サッシを標準としている車が多い。外形デザインの仕様を変えアルミホイールとクロム調窓サッシに変更しても販売価格で5万円も上がらないはずで、514万円が519万円になっても価格イメージは変わらず、販売抵抗にはならないのではないかと思う。他グレードとの差別化によりこうなっているのかもしれないが、外形デザインの仕様に対して不思議さを感じた。

図4 Volkswagen ID.4 Lite 内装

3.BYD ATTO3(図5)

「走るぞ」というアグレッシブな外形デザインの車だと思って乗り込んだが、それとは次元の異なる内装デザインに驚かされた。一緒に車を試乗していたジャーナリストの武田隆氏に「陽な車」だと聞かされたが、その通り確かに「陽気な面白い車」だとすぐにわかる。
図6に示すように、今までにない斬新なインパネデザインで、材質からくるプラスティッキーなイメージを吹き飛ばすほどの面白い演出をしている。おもちゃのような構成のエアコン噴き出し口やドアトリム(図7)であるが、メッキをうまく使って上質感を演出している。今までにないインナードアハンドル(図8)は、回転させて開閉をする意表をつく構造になっている。またドアポケット付近に長さの異なるゴム紐を張り(図9)、これを弾くとメロディーを奏でるという遊び心満載の演出を設定している。陽気なラテン系のイタリア人の設計する車でも、ここまでの演出をしたものはない。それを中国の自動車会社が思い切って車に実現していることは驚くべきことである。中国人がこれほど陽気な人種だとは目から鱗が落ちた。1党独裁国家で何事にも統制がされていることと車創りは別物で、中国の自動車会社のイメージが全く変わった。
価格440万円はこのクラスの最低価格で、世界でBYDの車が大量に売れることには納得がいく。
走行性能については、EV車共通の「どっしり感」はしっかり出ているが、ステアリングフィールはまだ完成されていないと感じた。ステアリングを回してから車旋回までにタイムラグがある。ワインディングロードや高速道路のレーンチェンジで旋回遅れが発生し、やや安心感に欠ける。これはフロントの車体剛性が低いことによるものと推測されるが、それを向上することは技術的に難しくはない。この欠点はすぐに解消されるだろう。フロントの車体剛性が改良され販売価格が維持されれば、世界の中で有数の価値の高い車になり、販売台数のさらに多い車になると期待される。

図5 BYD ATTO3
図6 BYD ATTO3 運転席周り
図7 BYD ATTO3 ドアトリム
図8 BYD ATTO3 ドアインナーハンドル
図9 BYD ATTO3 音を演出するゴム紐

「第43回 輸入車試乗会に参加して その2」へ続く

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