大磯で行われた第38回輸入車試乗会に2月7日に参加した。
久しぶりの自動車の試乗会に出席し、それもたくさんの輸入車を見たり運転したりでき、ブログの執筆においても大変参考になるとともに、楽しいひと時を過ごすことができた。
自分自身が開発した車の試乗会は何度か行ったことがある。その時はせいぜい15台ほどの一つの車種を乗ってもらうだけであったが、それでも結構車の貸出調整は大変だった。今回の試乗会は80台もの種類の車両を一度に準備するということで、事務局の方はさぞご苦労なさったと思う。お礼を言いたい。(写真1)
今回はそのうち15台の欧州車や米国車に試乗したが、日本車は一部のメーカーの車を除き輸入車に対して走行性能では敵わない……というのが第一印象であった。
その中でも欧州車は優れているが、それぞれの国の特徴があって面白いと思う。
今回気になった車を以下に示す。
ドイツ車
アウディ SQ5 (3Lターボ) 写真2
アウディ Q5 1’st edition (2Lターボ) 写真3
フランス車
シトロエン C3 Shine (1.2Lターボ) 写真4
プジョー5008 Allure (1.6Lターボ) 写真5
プジョー3008 GT-line 写真6
ルノー メガーヌGT (1.6Lターボ) 写真7
イタリア車
アルファロメオ ジュリアスーパー (2Lターボ) 写真8
写真1 輸入車試乗会受付
写真2 アウディ SQ5
写真3 アウディ Q5
写真4 シトロエン C3 Shine
写真5 プジョー5008 Allure
写真6 プジョー3008 GT-line
写真7 ルノー メガーヌGT
写真8 アルファロメオ ジュリアスーパー
これらのどの車もステアリングを回すと機敏に正確に旋回し進行方向を変えることができる。これは言葉で言うとフロントがしっかりしているという一言に尽きるが、自動車の構造としてはフロントのボデー剛性が高いと言い換えることもできる。
著者が拙著『走行性能の高いシャシーの開発』で紹介したことだが、この乗った時の感覚はステアリングを支えているステアリングサポートという構造物の剛性が主因ではないかと感じる。
写真9に鉄パイプでのステアリングサポートを示す。開発時にそのパイプの中に硬質発泡樹脂を入れると剛性が格段に上がることが分かったが、試乗した車は、そのときと同じような感覚であった。
アウディはもともと太い矩形断面のアルミ材を用いて剛性は高い。フランス車やイタリア車では、分解したステアリングサポートを見たことはないが、やはり剛性は高い構造か、それを補う構造になっていると予想される。
写真9 ステアリングサポート
ステアリングサポートの剛性を上げると、さっさと車が旋回してしまうため、ロールが始まるまでの時間が短く路面を舐めるように旋回できる。よく「ロールをコントロールして旋回を上手くする」ようなことを日本の自動車会社の技術者が言うことがあるが、まずは旋回をしっかりして旋回性能に余裕を持った上で前後ロールセンター配分などを工夫し、車の味付けをすれば良いと以前から考えている。
そういう意味で、今回試乗したドイツ車、フランス車、イタリア車は旋回性能が高い上に、それぞれの味付けの特徴があり面白い。
ドイツ車はある程度ステアリングのニュートラル位置で遊びがある。しかし遊びの領域を過ぎると、「ぐいっ」というような力ずくで旋回するような、それも正確に車を旋回させる感覚がある。さらにそれらは正確に滑らかに行うことができていて「旋回の高級感」がある。
ニュートラル領域の遊びがあるのは、ドイツでは高速道路であるアウトバーンの走行速度が高いため、直進走行の場合にあまりニュートラル付近で敏感に反応して車が旋回すると、危険な走行状況になることを防止しているのではないかと推測する。
フランス車は道路の路面を舐めるように旋回するというような感覚がある。ニュートラル領域の遊びはドイツ車ほどなく、軽快に旋回する感覚である。よくフランス車はステアリングを回転するとさっさと車の方向が変化し、「猫足」と言われることがあるが、改めてその通りだと思った。ただし最近はドイツ車に似てきてその素早さは以前に比べて少なくなっているといえる。一方旋回の高級感は以前より上がっていると感じる。
イタリア車はフランス車よりさらに旋回が機敏になり、運転していても面白いと感じる。「くるっ、くるっ」と良く回転する感覚である。遊ぶ車としてはお勧めではないだろうか。とにかく楽しい車である。
ステアリングのニュートラル領域の遊びが少ないと、高速走行で危険な走行状況になるとは言ったが、今回走った日本の法定速度内程度のものであれば、フランス車やイタリア車も問題ない走りである。操舵により修正がすぐにできるため、普通の日本車より格段に安心感は高いと思う。
著者が欧州で同乗させてもらったラテン系の人は、警察さえいなければ車の走行速度は日本の比ではなく、下り坂などで200km/hでもへっちゃらで飛ばしていたことがある。また街中でも曲がり角を相当なスピードで曲がるため、助手席に乗っていて「速度を落としてくれ」となんどもお願いした経験もある。このような運転がありえる欧州では、運転する上での「安心感」は大切であり、一般の日本車に比べればフランス車でもイタリア車でも直進走行性能や安定性は優れている理由のひとつといえる。
車のステアリングフィールをワインにたとえてみると、ドイツ車はカベルネかメルローの赤ワイン、フランス車はシャルドネの白ワイン、イタリア車はシャルドネのシャンパンではないだろうか。
ドイツ車は赤ワインのような濃厚で深みの味のあるステアリングフィール、辛口白ワインに例えるフランス車はカラッとして軽快に旋回するステアリングフィール、イタリア車はそれに泡がシュワっと入ったような、跳んでいる遊び心のあるステアリングフィール。
著者は高価な高級ワインなどに詳しいわけではなく、ワインの得意な方には「もっとワインというものは違うんだ」とお叱りを受けるかもしれないが、一つのたとえとしてご容赦していただきたい。
その他、ドイツ車はステアリングを回しながらブレーキをかけると、きれいに上質に旋回するような感覚を受ける。通常日本車にはステアリングを回しながらブレーキをかけたり、その逆操作をしたりするとフラフラして不安定になり恐怖感を感じる車があるが、試乗したドイツ車では全く感じない。安心して操作できる。
今回試乗したフランス車の中で特異であったのが ルノー メガーヌGTである。高速道路で操舵をするとステアリング操作に抵抗感があり、まっすぐ走らせようとする力が働く。車線変更はスムーズで、今まで経験したことのない安定した感覚を覚えていたところ、同乗者から4W−Sであることを聞いた。4W−Sとは図1に示すように低速では前後のタイヤの向きを反対方向にして回転半径を小さくして曲がりやすくし、高速ではスピンしないようにタイヤの向きを同じ方向にして安定性を増加させることを主にする機構である。ルノー メガーヌGTを低速で乗ると、一般の車より安心して小さな半径で旋回できる。旋回している車を外から見ると確かに後輪が前輪と反対方向に向きを変えていてなるほどと認識した。自分の著書にタイヤの向きと走行性能の話を書いたが、実際にそのような状況になる車に乗ったのは初めてで、なるほど確かにそうだったと安心したと同時に、理屈だけで書いた内容を読者に読んでいただき申し訳ないとも思った。
図1 4W−S車のタイヤの向き
試乗日は雲ひとつないような快晴で湘南の海の波がキラキラ輝き、真っ白い富士山も鮮明に見え、輸入車をいっぱい運転できる実益を兼ねたバカンスになって有益な時間を過ごせた。
またこのような機会があれば是非参加したいと思う。