少し前になりますが、フォルクスワーゲンの試乗会で乗ったモデルの報告です。今回はザ・ビートルR-LineとDesign。
これはザ・ビートル R-Line。昨2016年に新しく加わったモデルで、ベーシックモデルよりはややパワーのある1.4リッター・ターボを搭載。リアに小さなウィングを備えたり、ホイールアーチに沿ってブラックの縁取りがあるなど、外観はベーシックモデルに少し華を加えた装い。
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エンジン出力は150ps。とくにパワフルなわけではないものの、意外に気持ちよく回り、サウンドも快音です。最新のゴルフよりは一世代前のシャシーなので、ものすごくというわけではないけれど、十分に洗練はされており、なにより運転していて楽しい、と感じます。適度なパワーで、楽しんで乗るには大変よさそうです。
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これはザ・ビートル Design。先に乗ったR-Lineと比べて、外観は特別なものは付いておらずシンプルですが、ザ・ビートルはもともとがファンカー的な遊びのあるスタイルなので、楽しむにしてもこれでも十分かと思います。R-Lineだとちょっと大げさと思う人もいるかもしれません。
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走ってみると、足回りなどは似たような乗り味に感じます。タイヤは同じ銘柄で、1インチこちらが小径。エンジンは1.2リッターのターボなので、当然パワーはもっとおとなしいし、回転フィールも普通な感じになってしまうのは否めません。それでも十分に乗っていて楽しさを感じます。直前に乗ったゴルフのトレンドラインと比べて、ザ・ビートルのほうが楽しく感じるのはまだしも、不思議なことに乗り心地などもザ・ビートルのほうが良いように感じました。マイナーチェンジで各部にテコ入れしたのが効いているのでしょうか。
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Designの内装はこんな感じ。R-Lineだと3連メーターがセンターに付きます。ファンカーらしい仕立てで、ゴルフとはまったく違う意匠ですが、やはりドイツのフォルクスワーゲンらしい落ち着きはあるように思います。後席は天井が少し低くなっている箇所はありますが、ヘッドルームは確保されています。ハッチバック車として十分な実用性を持っています。ゴルフの実用性ほどではないにしても、ゴルフにないこのファンな雰囲気はやはり魅力があります。
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ファンとは言っても、モダンデザインで鳴らす現代のフォルクスワーゲンらしく、外観デザインも抑えが効いていて知的さは失っていません。それがよいか悪いかは人ぞれぞれですが、大人らしさはあると思います。個人的には、R-Lineの気持ちのいいエンジンを、Designの車体に組み合わせたのがあればなおいい、と思った次第です。
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ザ・ビートルは、フォルクスワーゲンの中では今さら言うまでもないですが、少し異端児です。ザ・ビートルを前にするとフォルクスワーゲンとはなんなのか改めて考えてしまいます。フォルクスワーゲンは"ピープルズカー"のブランドですから、人に親しまれることは重要で、こういうポップな存在も必要なのかと思われます。ドイツ的な機能主義だけではだめだということです。もともとアメリカ市場のために開発されたのが先代のニュービートルでしたが、元祖ビートルの再現ということと同時に、元祖ビートルの改造車として流行ったカリフォルニア発祥のカスタムカー文化みたいなものも少しとりこもうとしています。そのいっぽうドイツらしいまじめなつくりのクルマとして仕立ててもおり、それがとくにこのザ・ビートルが先代ニュービートルとやや異なるところです。結果的に、カスタムカー的なところと、まじめ一本やりのドイツ的なところが同居して、器用なようでいて不器用で愚直なようでもあるという、おもしろいクルマになっています。フォルクスワーゲンというと排ガスの問題が記憶に新しいですが、世界最高峰のメーカーとして畏怖の念を感じると同時に、やはり人の子でもあるのだと思う次第です。いずれにしても、ファンカー的なものをつくっても、品質感の高さを感じさせるクルマづくりは、やはりフォルクスワーゲンならではのものであって、だからこそ世界のユーザーは変わらず支持をしているのではないかとも思います。
(レポート・写真:武田 隆)