アウディA4 2.0TFSIに長距離試乗しました。非常に洗練された乗り味が印象的でした。
2.0TFSIは、クアトロでないベーシックなモデルで、駆動はFWD。出力はクアトロの252PSに対し190PSと比較的抑えられています。基本はファミリーカーという印象の、セダンとしてごくオーソドックスな実用性を備えたクルマです。
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モデルチェンジ前と比べて、一見どこが変わったかわからないようなデザインで、アウディのそれもA4のオーナーでもなければこれが新型とはわからないかとも思います。しかし最新のアウディのデザインの傾向に沿ったもので、顔つきはよりシャープになり、近年のアウディの特徴であるシングルフレームグリルも、少しですが鋭角化しています。
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全長は4735mm、ホイールベースは2825mmで、ともに旧型比+15mm。全体的にかなりスマートで、低重心でいかにも安定したフォルムになっている印象です。エアロダイナミクスも進化して、CD値は0.23しかありません。現存のドイツ車はどのメーカーでも正常進化型モデルチェンジを繰り返していますが、アウディはその中でも極めてシンプルに徹して、変更のための変更をしない印象です。とくに最近は変化のないことに対してデザインの手詰まりを指摘する声を耳にすることもありますが、しかし変化をしないアウディのモデルチェンジは、メーカーのデザイン哲学、ひいてはクルマづくりの哲学が、まったくブレがないというべきか、ある意味鬼気迫るものを感じます。
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リアビューも比べてみないと旧型との違いがすぐにはわかりません。A6とかA3などの上や下のモデルとも近似性が高いですが、ただたとえばA3などはA4よりも丸く小さく感じ、さすがに見分けが付く感じです。アウディとしては、各モデルで変化が付くよう配慮しているという話も聞きます。A4はいかにもスマートで立派でもあります。ミドルクラスのセダンではあっても、もはや立派な高級車の佇まいという印象です。ちなみに価格も、ベーシックなこの2.0TFSIで車両本体価格518万円であり、十分高級です。本国にはもっと安い設定のベーシックモデルもあるようですが、日本市場においては、A4は少し上級化したような印象です。
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内装もシンプルで、アウディの哲学が反映されています。各部の上質感はさすがで、スイッチ類の操作感なども洗練されたものになるよう徹底的に吟味されているそうで、アウディのクルマづくりはすべてにおいてそのように高品質に徹しているようです。そのため運転していても非常に洗練されており、たとえばステアリングについても、ステアリングホイールそのものの感触のよさから始まり、ステアリングをまわしたときのそのスムーズさとちょうどいい反力からくる快感、そしてステアリング入力に対して車体の動きがぴたりと連動した気持ちよさなど、このうえないものです。今回、広報車を借りて約500km走りましたが、街中でもワインディング路でも、ひたすら気持ちいい快適な走りで、頭に浮かんだ言葉は「超気持ちいい」。それでは引退を決めた水泳の北島選手のセリフと同じだななどと思いながら、さらに「なんもいえねえ」もいえるなと思った次第です。もはや文句をいいたいなどと思えない、もうこのうえない、という心境でした。
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アウディは、メーターパネルやいわゆるナビパネルを液晶化、デジタル化し、インフォテイメントで革新を進めています。メーターのデジタル化はTTが先に導入しましたが、A4も今回導入しました。いろいろな情報が見やすいなかでも、とくにナビの使い勝手は良好です。ダッシュパネル中央のディスプレイだけでなく、メーターパネル内にもナビ画面を表示することができます。それぞれナビ画面を別のものを表示することができ、たとえばふたつの地図の縮尺を変えて、広域図と詳細図を同時に見られるようにすると、非常に助かります。ちなみにこの写真では、メーターパネルの画面は、スピードとタコメーターを大きく表示して、その間にナビ画面が出るようにしています。
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この写真では、タコとスピードのメーター表示を小さくし、ナビ画面をいっぱいに表示しています。ちなみにこの状態では、グーグルアースの画面となっています。運転しながらリアルタイムで(本当の現在の状況が写されるわけではないですが)まわりの状況が"衛生画像"で見られるのは、道中や目的地での場所探しなどに便利だなと思った次第です。
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画面が大きいだけでなく、操作もしやすいです。ダッシュパネル上のナビ画面の操作は、センターコンソールの丸いダイヤルで行います。このようなダイヤル操作はメルセデスやトヨタ、BMWなど、多くのメーカーで採用し、使い勝手がよいと思いますが、このA4のすぐれているのは、その際に左手を置く台座をシフトレバーが兼ねていることで、手を置く位置が操作のしやすさにつながるだけでなく、細かいことですが、センターコンソールの「土地の有効活用」ということでも効率的で、合理的設計だと感心しました。もちろんMT車ではできないことですが。このATのシフトレバー自体の操作性もまったく悪くありません。
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前席、後席とも快適で、ホイールベースが長いということもあり、後席の広さは十分なものがあります。
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タイヤは標準が205/60R16のところ、225/50R17を履いていましたが、むやみに大径ではなくファミリーカーとしては好ましいサイズと思われます。銘柄はミシュランのPRIMACY 3でした。乗り心地は十分ソフトで、まるで絹の上を走っているような感触もあります。ちなみに別の機会に乗ったA4クアトロ・スポーツの場合は、少し硬めで、ドライブセレクトのモードをComfortにしたい感じでしたが、今回乗ったFWDモデルは、基本的には、スポーティーセダンというよりは実用的なファミリーカーという印象で、乗り心地のソフトさはまず十分という印象です。今回ワインディング路も走りましたが、タイヤが比較的マイルドということもあり、あまりスポーティーな走りを重視した仕立てには当然ながらなっていません。しかしふつうに流す程度であれば極めて快適スムーズで、コーナリングも気持ちよいものです。
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今回はFWDモデルでしたが、フロントのトラクションを試す機会がありました。山間の急な上り区間で、どんなものだろうかとタイトコーナーの立ち上がりで1速にホールドしたままアクセルを踏み込んでみましたが、ESPがオンのときはなにごとも起こらず、ESPをオフにするとさすがに若干空転はしましたが、トルクステアを感じることはなく、左右に乱れずに走っていきました。
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これは縦置きエンジンでドライブシャフトが左右等長であることが理由であるのかはよくわかりません。左右不等長シャフトになる横置きエンジンFWD車は、昔はトルクステアがよく出ましたが、近年のクルマは出なくなっているようでもあります。ただ、とにかくこのA4はFWDのくせは普通に運転するかぎりほとんどないようで、ことによるとレイアウトの有利さもステアリングの感触の上質さに貢献しているのかと想像しました。ちなみに上の写真でもわかるとおり、アウディの近年のモデルは、フロントデフの位置を少し前進させてその分エンジンが後方寄りに搭載されています。とくにFWD車ではこれは一般論としては重量配分のうえで有利といえない可能性もありますが、不利が出るようなことをアウディはしないはずです。これによって外観上、フロントオーバーハングが短くなり、BMWやメルセデスといったオーバーハングを詰めているRWDのライバルに対抗していると思えます。
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洗練が待たれると思ったのは、ドライバー支援システムに関してです。いわゆるレーンアシストやアダプティブクルーズコントロールなども含めて、新型A4はドライバー支援システムが新たに充実していますが、その作動感が、部分的には必ずしも洗練されていないところがあると思いました。もちろんほかの高級車ブランドでもこの分野はまだ発展途上で、アウディより荒削りと思ったクルマもありますが、下位ブランドたるフォルクスワーゲン(トゥーラン)に負けていると思う部分を一度体験したので、はて、と思った次第です。(その「部分」とは停止寸前の繊細なブレーキ動作のことで、トゥーランはそこが運転のうまいドライバーのような絶妙な加減でした。A4も相当に繊細な動作をしたのですが、ゆっくり停まろうとしている、というような状況で、一瞬ブレーキGがわずかだけ弱まるようなときがあり、ごく軽微ながら違和感を感じました。非常に繊細にブレーキの制御をしている結果のわけで、Gがかすかに一瞬ぬけるのは、もしかするとギアが1速シフトダウン動作をする瞬間のことかとも思いましたが、さだかではありません。トゥーランではそういう条件での走行がなかっただけなのかもしれず、これがA4だけのことなのかどうかはわかりません。そのほかにも洗練や、仕様に対する議論が待たれると思ったところはありましたが、それらは上記のとおり各メーカーとも各社各様にあることです)。開発における微細な洗練の作業こそはアウディの十八番とも思えるわけで、だからこそ洗練が足りないと考えたわけですが、今後は当然そういうところも進歩があるのだろうとは思う次第です。ちなみに試乗したのは4月のことでした。
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アウディは高級ブランドなので、価格設定が高めで、そのために感性性能の追求に関してもコストをかけることができるはずです。たとえばほとんどの日本車は、上質感においてこのアウディに対抗するのは簡単ではないと思います。最近は、限定生産のスポーツモデルなどで洗練度が高いクルマが、国産車でも見受けられるようではあるのですが・・。アウディと同グループでやはり高品質で評価の高いフォルクスワーゲンと比べても、アウディはおそらくコストをかけられる分、さらに洗練されていたとしても不思議はありません。アウディはクルマのどこを見ても緻密さがほかとはもう一段違う感じをうけます。
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ドイツ車というと、機械信条主義、みたいな言葉も連想されます、アウディもテクノロジーの追求をブランドのポリシーに掲げており、実際にそういうイメージが醸成されており、工業製品、機械として完璧さを追求しているということは実車に接して伝わってきます。しかしこの機械の目的はなにかといえば、人に直接使われるということであり、人を満足させる機械としての性能を追求するとしたら、官能性の追求は重要なことになるはずです。人からいろいろ話を聞いたりすると、アウディは、おそらくやはり官能性評価みたいなところを、しっかりチェックする開発体制になっているようです。そうでなければ毎回こういうクルマができてはこないわけで、それはもう文化というしかないのかもしませんが、逆にいえば意識の問題だとすれば、理屈のうえでのノウハウとしては、「気持ちいいクルマ」をつくるというのは、難しいことではないのかもしれません。まあ実際にやるのはやっぱり難しいのかとも思いますが、、、なにはともあれ、アウディA4に脱帽、という、今回の試乗でした。
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(レポート・写真:武田 隆)