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フォード・フィエスタとエクスプローラーの印象


日本から撤退するフォードのレポートを続けてきましたが、最後に、フォード・フィエスタとエクスプローラーに試乗した印象です。とくにフィエスタなどもいいクルマだと感じますが、惜しいかぎりです。
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メタリックのブルーが映えるフィエスタ。フィエスタをはじめフォード車のカラーリングは鮮やかなものが多く、女性にも好まれているそうです。
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フィエスタはスタイリングも好評のようです。よく言われるのは、顔がアストンマーティン、ですが、高速道路の追い越し車線で前のクルマがどいてくれる率が高いという話も聞きます。
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道を譲ったあとにこのリアビューを見て、なんだ、と思うのかもしれませんが、高性能ホットハッチのようにも見えます。ウェッジシェイプというべき前傾したベルトラインに丸いルーフを組み合わせたキャビンは、独特の印象。小型車らしいかわいさがありながら、シャープなかっこよさもあって、コンパクトカーの悲壮感がありません。
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エンジンはフォード得意のエコブーストの3気筒1リッター直噴ターボです。前にも書きましたが、音の種類としては3気筒らしい音だとは思いますが、振動などもなく、悲壮感はまったくありません。トルクも十分あり余裕で走れます。
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今回山道も走りましたが、走っていて楽しさを感じるクルマでした。ステアリングは比較的シャープな印象です。ただロールがもっさりとするので、曲がり始めてからボディ上屋が傾いてきて、落ち着きません。そこで、コーナー入り口で意図的に荷重移動をしっかり行い、姿勢を始めにつくってやると、安定してあとは気持ちよく曲がってゆきます。右に左にとロールをコントロールしながら、硬すぎない足で軽快に走るのは、実に楽しいものでした。
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もちろんスポーツカーのようにしゃかりきに走るのには向きません。ギアシフトをマニュアル的に行おうとすると、親指1本でチェンジレバー横腹の+ーボタンを操作してのシフトチェンジ(クーガの試乗記参照)となり、コーナーの前後でシフトダウン、アップを繰り替えすという走り方には、これはあまり向かないようで、2速なり3速にホールドして流す程度の走りが、よいようです。エンジンは十分トルクがあるので、よほどの上り坂などでなければホールドのままでよく走れます。デュアルクラッチの6速パワーシフト自体は、優秀です。
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燃費は約270kmを比較的活発に走って、おおざっぱに9km/リッター前後でした。スタイリングと走りの印象が、実にリンクしている感じがあり、肩肘張らずに乗れて、しかもスポーティに走りたい気持ちも満足させてくれるクルマでした。アメリカでも販売されるいわばグローバルカーですが、もともと欧州生まれで、欧州で評価されてきたクルマらしく、走りはよく、さらにいえばクルマとしてよい、といえる1台と感じます。イタリアとかフランスのコンパクトカーのようなとんがった記号性はないですが、それでいてクルマとしての楽しさを備えたクルマということで、十分魅力があると感じます。
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これはエクスプローラー。日本のフォード車としてはおそらく最も存在感のあるモデル。日本で25年以上の実績がありました。フォードとして定番的に支持されるモデルで、デザイン的にも手慣れている感じを受けます。
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前から見るとアメリカの近年のSUV系モデルはグリルも大きく迫力があります。タイヤは20インチあり、車重は約2.3トンの巨漢です。とはいえ極端に大きいわけではなく、乗っていても細い道に入ったりしないかぎりは、まあ普通に乗れました。また左ハンドルなので、すれ違いなどで左側に不安なく寄せられるのは、助かりました。
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内装は趣味の良さを感じます。グレードは最上級のタイタニアムで、レザーやアルミパネル、アッシュウッドなどを使用しています。あくまでブランドはフォードなので、ほどほどの高級感ですが、嫌みがなく、十分に上質な仕立てとなっており、好ましさを感じます。ヨーロッパに比べてアメリカ人は趣味がどぎついとか、大味などといわれることもありますが、そういったことを感じさせません。このリラックスした上質感は、アメリカ人のものならではなのかもしれません。
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シートその他の調整は電動で、とくにシート高さの調整はサンダーバード(TV人形劇の)の特殊装備かなにかと思えるほど上下に動き、それに応じてペダル位置も調整が可能です。座面を下げればポジションは乗用車に近づきますが、やはり上に上げ気味にして、視界のよさを満喫したいと感じた次第です。
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エンジンは3.5リッターV型6気筒で、370ps、474Nm。2280kgの車体をぐいぐいと走らせます。ただ、今やこういったアメリカの大型モデルも6気筒の時代になりました。遮音も充実しているようで、車内は非常に静かです。V型エンジンならではのサウンドを楽しもうとすると窓を開ける必要がある、というくらいです。燃費は都内を走ってだいたい5km/リッター弱ぐらいでした。
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乗り心地は、低速で少し凹凸を拾う印象がありましたが、全体としてはゆったりアメリカンな感じがあり、高級SUVの魅力を満喫できます。もちろんリンカーンではなくフォード・ブランドなので、高級車というほどではなく、価格も635万円です。いずれにしても、ふつうの乗用車では味わえないものがあり、人気があるのもうなづけます。
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フィエスタとエクスプローラー。フォードの誇るエコブーストの最大と最小のエンジンになるそうです。フィエスタがヨーロッパ発、エクスプローラーが米国発、と見なせますが、まったく違うクルマでも、底には通じるものも感じられ、それがフォードということになります。しかし本当に日本撤退は残念なことです。
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(レポート・写真:武田 隆)


リポーターについて

武田 隆(たけだ・たかし)

1966年東京生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科中退。出版社アルバイトなどを経て、自動車を主体にしたフリーライターとして活動。モンテカルロラリーなどの国内外モータースポーツを多く取材し、「自動車アーカイヴ・シリーズ」(二玄社)の「80年代フランス車篇」などの本文執筆も担当した。現在は世界のクルマの文明史、技術史、デザイン史を主要なテーマにしている。著書に『水平対向エンジン車の系譜』 『世界と日本のFF車の歴史』『フォルクスワーゲン ゴルフ そのルーツと変遷』『シトロエンの一世紀 革新性の追求』(いずれもグランプリ出版)がある。RJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)会員。

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