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フォード・エコスポーツに試乗

日本市場からの撤退がきまっているフォードのエコスポーツに試乗しました。フォードらしい雰囲気を備えたコンパクトSUVは、愛着のわく1台といった印象でした。
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フォードの撤退は非常に残念です。日本においてはたしかに存在感はある程度限定されていましたが、フォードはT型フォードに事実上のルーツをもつ、世界で最も名高いメーカーのひとつであり、それが日本からいなくなってしまうのは、残念というしかありません。
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エコスポーツはフィエスタと同じプラットフォームをベースにしています。SUVとはいえ2WDですが、地上高を高くしたり、アプローチ&デパーチャーアングルを大きくとるなど、それなりに悪路走行には配慮されています。とくに水深550mmまでの水没に耐える配慮がされており、だいたいタイヤがすべて隠れるぐらいの水深までは大丈夫なようです。
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エンジンは日本仕様では、フィエスタのような3気筒エコブーストではなく、シンプルなターボなしの1.5リッター4気筒を搭載します。それほどパワーがあるわけではないですが、ふつうに走るぶんには十分で、走りは良好という印象です。組み合わされる変速機はデュアルクラッチのフォード言うところの6速パワーシフトで、ふつうに走るぶんにはほとんど不満はありません。
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内装はフィエスタなどとデザイン的な共通性も感じとれます。実はこのエコスポーツはインド製ですが、ちょうど同じようなクラスでやはりインド製のスズキのバレーノよりは、心もちもう少し上級感を保った内装になっている、という印象です。グローバルでのクルマづくりの展開ということではフォードはスズキの大先輩となる、というか、世界におけるパイオニア的存在といえ、約100年にもなる伝統があります。おそらく最初から各国市場でのことを考えて作られていると思いますが、エコスポーツは新興国市場向けのクルマというような独特の簡素さをあまり感じませんでした。
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インパネやセンターパネルは夜間にライトを点灯するとこのように青く光ります。これはフォードの多くのモデルで共通の色合いですが、この青がなかなか気持ちのよい明るい色です。ちなみにダッシュのモニターの表示は英語が基本で、設定をいじるとほかにスペイン語、ポルトガル語も選択できます。そんなところにワールドカーとしての一種のノスタルジー(?)のようなものを期せずして感じる次第です。まあもちろん日本語が表示されればよかったのですが‥。
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言語から連想されるように、エコスポーツは南米市場が重視されているようです。もともとこの先代モデルはブラジルで生産され、南米市場では非常に売れていたようです。
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2輪駆動ですが、外観はしっかりSUVらしくデザインされています。とくにリアにスペアタイヤを背負っているのは今や貴重な存在で、とくにここ日本においては立派な付加価値となるアピールポイントではないかと思います。
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前側から見ると、スタイリッシュなSUVといった感じにまとまっています。純粋なSUVというよりクロスオーバーというのが適しています。Cピラーがかなり寝ているのも特徴的です。コンパクトSUVがブームで激戦になっているヨーロッパでも売られるので、この辺は積極的にデザインされているのかなと感じます。
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フロントマスクはなかなかキャラクターに富んだ顔つきで、コンパクトカーとしてナイスな感じです。アンダーグリルのデザインなども個性的です。ラテン的なものもどことなく感じる雰囲気のクルマです。
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フロントマスクはアライグマかなにかの動物を連想させます。Aピラーはかなり寝ており、ピラーの付け根から盛り上がりがボンネット上まで伸びています。このあたりの造形は、ホンダ・フィットなどと少し似た感じをうけます。あくまで私見ですが、大衆車づくりに関しては、フォードとホンダはどこか共通する哲学があるような気がします。本能的に大衆車づくりに関して才覚をもちあわせている、と思わせるものがあるようです。
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ちなみにホンダの大衆車の原点が1972年発売のシビックだとすれば、フォードの大衆車の原点は1908年発売のモデルTです。しかしシビックはもちろん、世界のいかなる大衆車もモデルTの偉大さにはかないません。モデルTをはじめ第2次大戦前のフォードは、悪路が多いアメリカの国土の状況をおそらく反映して、シャシーがタフで地上高も高いという特徴があったようで、今でいうSUVに近い要素をもちあわせていました。それから考えるとこの小さなSUV的大衆車のエコスポーツはT型フォードの末裔の1台といえなくもないかもしれません。もっとも、T型フォードの最大の継承者として、アメリカ本国で売られて世界最多販売車種として長年君臨するFシリーズというライトトラックが、フォードにはあります。
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小さいといっても全長は4120mmで4mを超えており、室内の広さはかなりのものがあり、後席も広いことを確認しました。
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さらに荷室も十分な広さがあります。さすがに世界各地で使われるクルマであり、実用車としての使い勝手はしっかりしています。乗り心地は十分よく、ハンドリングはけっしてスポーティではないですが、走っていて楽しさを感じるタイプでした。ボディカラーも含めて、なにかラテン的といってよいような明るさを感じました。それでいてあくまで基本は実用車としてまじめにつくられているのは好感がもてます。ただし実用車としてだけ考えると価格が246万円というのは、国産車に比べれば高めです。スペアタイヤを背負ったスタイルや、独特の雰囲気は十分価値がありますが、そのほかフォードのブランドが好き、ということであれば、もうほかに選択肢はありません。
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広報車のキーには近年のフォードの公式キャラクターのFOMOくんが付いています。これを単純にかわいいと言う日本人は多くないかもしれず、Tシャツを着た青いオバQのような彼はいったいなんであるのか、と一瞬逡巡したくなりますが、しかし個人的には、ああこれがフォードだ、というふうに感じてしまいます。言葉にするのはむずかしいですが、むやみにかわいさを売りにするようなことはなく、素朴であり、それでも親しみやすくかわいげがあり、いい奴だ、と感じられるイメージ、そしてどちらかというと骨太で質実剛健、それがフォードではないか、と思う次第です。
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(レポート・写真:武田 隆)


リポーターについて

武田 隆(たけだ・たかし)

1966年東京生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科中退。出版社アルバイトなどを経て、自動車を主体にしたフリーライターとして活動。モンテカルロラリーなどの国内外モータースポーツを多く取材し、「自動車アーカイヴ・シリーズ」(二玄社)の「80年代フランス車篇」などの本文執筆も担当した。現在は世界のクルマの文明史、技術史、デザイン史を主要なテーマにしている。著書に『水平対向エンジン車の系譜』 『世界と日本のFF車の歴史』『フォルクスワーゲン ゴルフ そのルーツと変遷』『シトロエンの一世紀 革新性の追求』(いずれもグランプリ出版)がある。RJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)会員。

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