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JAIA試乗会(その1:レンジローバー・スポーツSVR)

2016年2月に行われたJAIA試乗会で印象に残ったクルマを、いくつかレポートします。今回はレンジローバー・スポーツSVR。レンジローバーというだけで少し雲上人的な存在ですが、このクルマは雲の上の風神か雷神かという感じの、並外れたクルマでした。

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一見ふつうのレンジローバーです。初代レンジローバー以来の、伝統的スタイルを踏襲しています。しかしよく見るとアンダーグリルの開口部の大きさ、タイヤの大きさなどに違和感を感じます。

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フロントにも付いていますが、リアにはSVRのロゴが目立ちます。スペシャル・ビークル・オペレーションズとは、レンジローバーの特別なモデルを仕立てる部門で、SVOと呼ばれます。Rの文字が赤くなっていますが、つまりそういうモデルということです。

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ルーフスポイラーなども付けています。タイヤは試乗車では295/40R22を履いていました。もっとも車体が大きいのでそれほど大きくは見えません。レンジローバー・スポーツの車体は、「通常のレンジローバー」とは別のボディで、よりスポーティーな佇まいです。前後フェンダーのふくらみなど、SUVというよりGTカーのフットワークを感じさせるデザインのようにも思えます。

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リアの下を見ると、マフラーがこのように、合計4本出ています。エンジンはV型8気筒5リッター・スーパーチャージャーで、550ps、680Nmというスペックです。同グループ内のジャガーFタイプのRなどに積まれるエンジンと基本は同様のようです。ちなみにジャガーFタイプにもSVRという超高性能モデルがあり、このクルマと一種の兄弟関係ともいえます。今回あまり予備知識なしに乗ったのですが、ダイナミック・モードに切り替えると、エンジンのうなり声が高まり、アクセルオフ時のアフターファイアのバリバリ音が発生しました。そのあたりはジャガーのタイプF Rなどと同じですが、記憶をたどる限りではさすがにジャガーのほうが音がシャープだったようにも思います。

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乗り込むと、少しスポーティーに仕立てたゴージャスな室内、というような印象です。ところがエンジンがとんでもないものだということで、ワインディング路で確認してみると足まわりも当然エンジン相応にひきしめられています。ただ、さすがに車体が大きいSUVのサイズで車高も高いので、スポーツカーのようにひらりひらりとはいきません。乱暴にいえば、先頃生産終了になったランドローバーの元祖のディフェンダーなどと基本的感覚は同じで、それを洗練させて究極的にオンロードの性能を高めていったらこれになった、というような感じでした。もっとも、しかるべきコースで、乗り手の気後れがなくなれば、実際はスポーツカー並の走破能力をもっているのかもしれません。というのも、あとで知ったことですが、このクルマはニュルブルクリンク北コースで8分14秒を記録しています。記録した2014年8月時点ではSUVのラップレコードだったということですが、そもそもSUVでタイムを競い合っていること自体が驚きです。

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それにしてもこの室内は、センスが抜群です。通常のSUVの範疇でないのはもちろん、ある種のGTカーのようなアナクロ的世界観でもありません。高級車としても、かなりあかぬけてモダンです。イギリスの高級デザインはウッドに革、というようなイメージもありますが、こういうモダンなデザインでも一流の伝統があります。このセンスのよい内装と荒くれのV8スーパーチャージャーが両立しているところが非凡です。
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SUVは車体が大きく、車高も高いので、運転していると、周囲に対してある種の優越感を感じることができる部分があります。しかしこのクルマの優越感というのは、空恐ろしいほどでした。念のため価格は1605万円です。


(レポート・写真:武田 隆)


リポーターについて

武田 隆(たけだ・たかし)

1966年東京生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科中退。出版社アルバイトなどを経て、自動車を主体にしたフリーライターとして活動。モンテカルロラリーなどの国内外モータースポーツを多く取材し、「自動車アーカイヴ・シリーズ」(二玄社)の「80年代フランス車篇」などの本文執筆も担当した。現在は世界のクルマの文明史、技術史、デザイン史を主要なテーマにしている。著書に『水平対向エンジン車の系譜』 『世界と日本のFF車の歴史』『フォルクスワーゲン ゴルフ そのルーツと変遷』『シトロエンの一世紀 革新性の追求』(いずれもグランプリ出版)がある。RJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)会員。

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