トップページ>>フォルクスワーゲン e-up! の印象

フォルクスワーゲン e-up! の印象

フォルクスワーゲンe-up!の短距離試乗の感想です。e-up!はup!の電気自動車バージョンで、外観はほとんど変わりませんが、up!のボディはEVによく似合う印象でした。

eup06491.jpg
up!の4ドア版と外観は同じ。ホイール、エンブレムの青いアクセントなどのほか、左右ヘッドランプ下の「コ」の字型の銀色のオーナメントが、e-up!特有のもの。「コ」の字の部分は元来、ドイツ本国ではLEDランプで光るようになっており、VWのEV共通のトレードマークです。後方には電車の高架線が見えますが、余談ですが、電気自動車を電車と略しても理屈ではおかしくはないはずです。

eup03091.jpg
変速機がないことが多いEVですが、アクセルオフ時のエンジンブレーキに相当する回生ブレーキの効きの強さは、クルマによっていろいろあります。たとえばBMWのi3は効きが強く、多く回生する設定です。e-up!の場合、ガソリン車との違和感がi3ほどは大きくはなく、なおかつ4段階に調整できます。一番強いBにしても、効きは驚くほどではなく、ただ後方のクルマへは、ブレーキランプ点灯で知らせたほうがよいだろうな、と思うぐらいは減速します。実際ランプは点灯するらしいです。ちなみに上の写真右はe-up!に続いて導入が予定されるe-ゴルフのものです。

eup03096.jpg
up!の車体をそのまま細部のアレンジだけで使用しており、バッテリーは床下に収まります。わずかに床が高くはなっているようですが、ほとんど感じないくらいです。もっとも、もともとup!の室内もあまり広いわけではないですが。乗った印象としては、EVの常で出足の加速は力強いです。しかし静かに加速するので、無駄な高揚感はありません。静かなことはEVは皆そうですが、VWらしい上質なスムースさを得るようにモーターユニットの製造にも配慮しているそうです。やはり走りは、VWらしい上質感があります。

eup06576.jpg
モーターはフロントに積んでいます。なので「エンジンルーム」の光景はup!と大きくは変わりません。up!はもともと開発初期にはリアエンジンが検討されていました。シティコミューターとしては、リアエンジン方式に一定のメリットがあるためだったと思います。とくに動力が小型で済むモーターの場合はなおさらです。
-
up!は企画段階から、ガソリンのほか複数の動力の搭載が予定されていました。そして、結局FWD(前輪駆動)に統一されました。VWの車種全体がFWDで展開する中、up!あるいはe-up!だけリア搭載方式にするのは、車台を別に仕立てたりする必要があり、コスト的に見合いません。ビートルの誕生以来、スケールメリットの追求に世界でも最も長けたメーカーの一人として、その選択は理にかなっています。

eup03090.jpg
VWは近年、まず直噴+過給によるガソリンエンジンのダウンサイジングで一世を風靡しましたが、次世代動力に関しては、すべて対応する方針で取り組んでいます。VWの考えとしては、石油の(価格の)将来性がわからないし、世界の仕向地によって、普及する燃料、動力が異なるからということです。ある意味トヨタ、GMとともに世界展開をする3大メーカーとして当然とも思えます。

eup06530.jpg
e-up!は、up!と同じ使い勝手が保証されています。違いは、とにかく静かでスムースなことです。いっぽう航続距離は限定されます。シティコミューターとしてならば十分ですが、カタログ上では185kmです。最高速は130km/hと発表されており、日本ではこれは意味のない情報かもしれませんが、違いとしてはそのおかげでスマートに、細いタイヤを履いています(165/65R15)。電気代は安いわけですが、車両価格の差額を燃料代で取り戻すのは、あまり現実的ではなさそうです。
-
いろいろ考えると、e-up!は、付加価値を期待して乗るクルマだと思います。環境重視の乗り物で、実際にスマートさを体感できる生活が待っていそうです。up!は、もともとデザインが非常にスマートで、いわゆる俗っぽさを払拭したデザインです。その点ではゴルフやポロを上回る気がします。リアエンドなどを見るとあたかもiPadを彷彿とさせます。そんなことから、ガソリン車よりEVに合っているようにも思います。

eup06618.jpg
インテリアデザインもスマートです。このクルマはカラーが白なので、よけいになにやらアップルっぽい感じがあります。メーターはup!と似ていますが、EVならではのものになっており、デザインも精緻な印象です。

eup0091.jpg
up!の日本発表時には、VWグループのデザインのトップ、ワルター・デ・シルヴァ氏も来日しました。デザイン面で非常に力を注がれた車種という印象があります。

eup06674.jpg
リアバンパー部分の「コ」の字型デザインも、e-up!特有のものです。最近up!を街中で見る機会が多くなっている印象です。仮にその中にe-up!が含まれたとしても、乗っている人以外は知る由もない、かもですが、オーナーの日々のライフスタイルがいかにも目に浮かぶようなクルマ、と思った次第です。

(レポート・写真:武田 隆)

リポーターについて

武田 隆(たけだ・たかし)

1966年東京生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科中退。出版社アルバイトなどを経て、自動車を主体にしたフリーライターとして活動。モンテカルロラリーなどの国内外モータースポーツを多く取材し、「自動車アーカイヴ・シリーズ」(二玄社)の「80年代フランス車篇」などの本文執筆も担当した。現在は世界のクルマの文明史、技術史、デザイン史を主要なテーマにしている。著書に『水平対向エンジン車の系譜』 『世界と日本のFF車の歴史』『フォルクスワーゲン ゴルフ そのルーツと変遷』『シトロエンの一世紀 革新性の追求』(いずれもグランプリ出版)がある。RJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)会員。

ウェブページ