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ダイハツ・ムーヴに試乗

ダイハツ・ムーヴに試乗した印象です。旧型から全方位的に進化して、軽自動車のトールワゴンとは思えないほどの、安定したロードホールディング、乗り味の上質感に、脱帽しました。

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6代目となるムーヴは昨2014年12月に発表されました。これはムーヴ・カスタムですが、この車両は2トーンカラーを採用しています。前後フェンダーを強調したデザインなど、今までとは少し違う存在感をアピールしています。

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ムーヴは1994年以来5世代を経ていますが、トールワゴンのカテゴリーで、近年の軽自動車の主流のモデルといえます。2世代目になる4代目あたりは、トールワゴンらしからぬスムースなモノフォルムのシルエットで、非常にスマートな印象でした。6代目の新型は、トールワゴンらしく背の高さをアピールするデザインになっているようにも感じます。しかし5代目がオーソドックスなトールワゴン風なのに比べて、新型はいろいろとデザイン的特徴を盛り込まれています。これは中身についても同様で、クルマの完成度を高めるべく、盛りだくさんに意欲的開発がなされています。

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とくに驚いたのは、走りです。ちょっとしたワインディング路を走る機会がありましたが、安定したロードホールディングは軽自動車ばなれしている印象でした。路面の荒れているところなどで、意識的に少し強めの横Gをかけても、まったく安定しています。トールワゴンでは横への傾きの不安感がありそうなものですが、それがありません。適度にロールしつつもぎゅっとねばって、コーナリングしていきます。これには目から鱗でした。トールワゴンの軽自動車でスポーツというのもありか、と思わず考えたしだいです。

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フロントサスペンションの展示。基本的にはほかの車種と大きく変わらないサスペンションですが、基本を見直して、各部を仕立てています。たとえばバンプストッパーを通常のゴムからウレタンに変えています。

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開発では、とにかく走りの基本性能の向上を目指したそうです。いわゆる積極的な走りでも、楽しさがあり安定した走りをすることがまずひとつ。さらに日常の運転でも快適で、安心感のある走りということで、頭部のふらつきなどを抑えるようにしています。

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シートの形状も見直し、ドライビングポジションの改善とともに、疲れにくく快適で、ホールドのよいシートを開発しています。シートの骨格は先代で充分なものを得ていたので、新型では座面のあんこを改良して、Gがかかってもサポートし、腰がぴたっとはまるように設計したということです。

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走りの基本性能を上げるということでは、まずボディ剛性の向上が基本で、そのうえでブッシュ類やバネ、ダンパーなどを最適化し、軟らかくするところは軟らかくした、ということです。

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ボディは、軽量化と剛性アップを果たしていますが、各部の力のかかり方、伝わり方などを吟味して、「Force Control」をテーマに開発したということです。クルマの基本性能向上の基本、に相当する部分です。各種メンバー類の取り付けを補強するなどしており、ボディ下面の補強も走りに影響しているようです。

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とくに注目すべきは、アウターパネルに厚板のハイテン材(高張力鋼板)を使っていることです。ボディ外板に強度をもたせることでほかの補強材を省略することができたということです。高価格車だと、カーボンや超々ハイテン材などの使用が増えていますが、その中で、コンベンショナルな鉄を有効活用したということで、コストの要請の厳しい軽自動車ならではの発想と思われます。ダイハツは、コペンが外板着せ替え可能で話題になっているほか、このムーヴでも使われている、樹脂ボディへの取り組みが注目されますが、鉄についても新しい使い方に着目して技術開発がされているようです。軽自動車としての技術の追求です。写真は、ピンク色の部分が厚板ハイテン材です。

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ボディサイドのアウターパネルに、厚板ハイテン材を使っています。通常のクルマでは使ってないような厚いもので、プレスについては制約があります。新型ムーヴは、前後フェンダーや、窓回りなどにシャープなプレスラインを入れて特徴を出していますが、制約と相談しながらデザインが決定されたのではないかと想像します。前後席ドアやフロントフェンダー部は別パネルであることを考えると、厚板ハイテン材自体にはそれほど複雑なプレスが入れられていないようにも見受けられます。

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リアゲートは、樹脂製になります。これはタントでも既に使用されている技術です。一体成型で複雑な形状を彫り込むことができるのが特徴で、スポイラーも一体化されています。空力については、開発当初から高い目標を設定し、床下まで実車に近づけた1/1クレイモデルを風洞にかけて、詰めの作業を相当やったそうで、開発スタッフによるとここまでやったのは今までにないとのことです。

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これは通常のムーヴですが、カスタムと比べると、比較的オーソドックスな顔つきです。

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通常のムーヴの内装は、明るい色合いです。従来型はナビ画面が下に付いたのが、視線移動の少ない上方に移動しています。内装も上質感が漂い、軽自動車ばなれしたところがあります。

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これはカスタムの内装。ステアリングは革巻になり、グリップの感触は良好でした。インパネ部分のガーニッシュは「ギャラクシーマーブル」と称するもので、青い大理石調です。ダッシュボードのデザインは上から、グレー、ブラック、そして「インパネ部分」と3層のデザインで、横基調というところは世界的流行に合致しているともいえそうです。シルバーの枠線が入っていますが、デザイナーの方の話だと、従来はシルバーの加飾パネルを広い面に使うことがあったが、ドイツ車などを研究し、今回のようにアクセントのようにして入れるほうがデザインが映えると認識するようになったとのことでした。この上級感を見ると、なるほど、と思う次第です。

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カスタムのメーター。通常のムーヴの場合、もう少し小さいものが付きますが、タコメーターは全車種に標準装備です。

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ウェイクにも短距離ですが試乗しました。従来のスーパートールワゴンでも頭上の開放感は相当なものでしたが、さらにという感じでした。個人的には運転していて頭上に"空気スペース"があるのは、なんとなく落ち着きませんが、このタイプのクルマをよしとするユーザーにとっては、至福の空間(?)なのかもしれません。ロールしたときの不安感などは感じず、ふつうに走れる印象でした。

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ウェイクはカラーバリエーションを見てもわかりますが、デザイン面でもディティールなどに遊び心があり、ガジェット的な雰囲気をうまく醸し出しています。それにしてもリアビューなど、かっこいい冷蔵庫、とでもいう感じの佇まい。自動車ばなれしたプロダクト、という感じがあります。

フルラインメーカーの参入などもあり、軽自動車のレベルアップが著しく、競合が激化していますが、そういった危機感も背景にあるのか、ムーヴのクルマとしての総合力の高さには、目を見張ります。軽自動車界でのライバルのスズキは、新型アルトで軽自動車の原点への回帰的な方向へ行ったのが印象的ですが、あたかもダイハツは、それとはまったく逆に、軽自動車の実力・能力を総合的に、正面から向上させようとしているように感じました。そのできあがった能力の高さに、脱帽しました。


(レポート・写真:武田 隆)


リポーターについて

武田 隆(たけだ・たかし)

1966年東京生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科中退。出版社アルバイトなどを経て、自動車を主体にしたフリーライターとして活動。モンテカルロラリーなどの国内外モータースポーツを多く取材し、「自動車アーカイヴ・シリーズ」(二玄社)の「80年代フランス車篇」などの本文執筆も担当した。現在は世界のクルマの文明史、技術史、デザイン史を主要なテーマにしている。著書に『水平対向エンジン車の系譜』 『世界と日本のFF車の歴史』『フォルクスワーゲン ゴルフ そのルーツと変遷』『シトロエンの一世紀 革新性の追求』(いずれもグランプリ出版)がある。RJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)会員。

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