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メルセデス・ベンツCクラスの印象


メルセデス・ベンツCクラス、C200アヴァンギャルド(AMGライン)を試乗した印象です。シャシー運動性能の高さ、アルミを大幅採用した軽量車体技術、新鮮な印象の内外装デザイン、エアサスペンションの採用(AMGライン)、などが注目です。


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のちほどもう少し詳しく紹介しますが、最新のCクラスはボディ外板にアルミを採用し、軽量化技術を駆使したモデルです。アルミでありながら、プレスラインなどはわりとシャープに入れられている印象です。

【1=内装について】

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内装もメルセデスの新世代感覚が盛り込まれており、先に出たAクラスなどと共通性が感じられます。

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Cクラスの中には、こういった内装の仕様もあります。

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これはC200アヴァンギャルドのもの。ジェットエンジンの吸い込み口のようなエアコン吹き出し口が並ぶところなど、Aクラスなどと共通の雰囲気。センターコンソール部の表面のパネルは、この車両は「ブラックアッシュウッド」というもので、新しさを感じさせるものです。

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「ブラックアッシュウッド」のパネルはドアトリムにも使用されています。

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これはまた別の車両で、このトリムは「アルミニウム」という名称のもの。この部分などゆるやかなカーブにエレガントさが感じられます。高級車ブランド間の競合が激しいドイツ車は、内装の高級感、新しさなどでも、それぞれ高いレベルに行っていると思わされますが、メルセデス・ブランドらしいエレガントさに加えて、とくに最新のメルセデスは新鮮さのあるデザインという印象です。

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「ブラックアッシュウッド」のパネルの拡大。枠で囲まれた部分は「蓋」なので、別パネルですが、木目に連続性があります。樹脂製のパネルに模様を付けたもののように思えますが、触ると木目の部分に凹凸があり、木材に加工仕上げをしたものであることがわかります。つまり一枚の木を加工しているわけですが、さすが高級車ブランドです。しかしウッドパネルでありながら、現代的仕上げのデザインを採用しているところが、新しさを重視していると感じます。

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光の加減で「ブラックアッシュウッド」の、木の表面の立体的感触がわかります。時計は、ブランドの特色が出る部分かと思いますが、メルセデス・ブランドのCクラスはこんな感じです。

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メーター類もしかりですが、これはタコメーター。

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ナビの操作部分がセンターコンソール上にあります。手前のマウスのようなものを手の平の台にして、その下のダイヤルを回して操作します。"マウス"の上面もノートパソコンのタッチパッドのようになっていて、指で触れて操作することができます。直感的に操作できて使いやすく、よくできていると思いました。

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ダッシュボード付近の全景はこんな感じ。Aクラスなどと同じで、ナビ画面はiPad風のスクリーンパネルになっています。

【2=走りについて】

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C200アヴァンギャルドのAMGラインでは、電子制御のエアサスペンション、「AIRMATICアジリティパッケージ」を標準装備しており、サスペンションの減衰力を変更可能です。Cクラスは、走りの性能について、セダン離れした運動性能の高さが評価されています。一般道の試乗ではその限界域を体験できませんでしたが、約400kmの試乗で、それをかいま見ることはできました。新設計のサスペンション、大幅軽量化され剛性の高いボディなど、基本設計から野心的で、開発時には走り込みも相当やったそうです。とにかくコーナリング能力が高く、ハードに走ってもバランスを失うことがありませんでした。

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センターコンソールのダイヤルを操作して、「アジリティセレクト」の各モードを選択できます。節約モードの「Eco」を除くと、「Comfort」、「Sport」、「Sport+」の3段階あります。

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「Individual」モードを選ぶと、ナビ画面で各項目の個別設定ができます。エアサス装着車では、サスペンションの減衰力も変更可能で、「Comfort」、「Sport」、「Sport+」の3段階の硬さを選べます。
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エアサスは従来上級のEクラス、Sクラスには設定されていたものの、Cクラスでは初採用です。いちばんソフトな「Comfort」がもちろん快適で、空気バネ特有の極上のスムースさを味わえます。ただ、ランフラットタイヤを履いているためか、微速走行では路面が荒れたところで、硬さを感じることがあり、目地段差などの突き上げに対しても若干感じることはありました。やはりドイツ車の場合、ある程度高速域で本領発揮する傾向があるようです(試乗は日本導入から間もなくのことだったので、その後仕様変更などあるかもしれません)。
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サスペンションは、「Sport+」を選んでも、ガチガチに硬いわけではありません。ワインディング路では「Sport+」が適していますが、AMGラインであるとはいえ、ファミリーカーでありながら極めて能力が高いのは驚きです。街中でもキビキビ走りたいときには「Sport」モードでもよさそうですが、その場合シフトプログラムが回転高めを選ぶので、パドルシフトで適宜シフトしながら走るのがよいかとも思いました。

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フロントサスペンションは、ストラットが「エアストラット」になっています。エアサスのユニットには「Continental」と書かれています。リアにもエアスプリングが装備されます。フロントはこの太いエアサスユニットを収めるためもあったのかどうか、アッパーAアームが高い位置にある変形ダブルウィッシュボーン的なものを採用しており、4リンク式と称しています。スペースに余裕のない横置きエンジンFWD車のダブルウィッシュボーンによく見られたタイプです。このCクラスのフロントサスペンションはオールアルミ製です。

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エンジンは2リッター直列4気筒のBlueDIRECTターボエンジンで、リーンバーン、ターボ、EGRの組み合わせは、メルセデスにより世界初の実用化とのこと。直噴ターボのリーンバーンということで、燃焼効率を追求し、排ガスのNOxを低減しながら、燃費の向上を実現しています。もちろん、これだけの運動性能を追求した車体だから、パワー的にも充分なものを確保していますが、さすがに環境性能を極めた最先端の燃焼システムを採用したことで手一杯というべきなのか、エンジンのサウンドについては快音を楽しむようなものではありませんでした。もっともメルセデスの場合、そこが逆に"本物っぽい"ような気がした次第です。
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ボンネット内各所にも、アルミ使用部分はあり、ストラットのマウント部分などのほか、写真で見える部分にも無塗装のアルミの部位があるのがわかります。

【3=アルミボディについて】

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野心的な開発がされたCクラスですが、アルミボディの採用もそのひとつ。少量生産の高価格車をのぞけば異例ともいえる約50%のアルミ使用率を実現しています。もちろんねらいは軽量化の追求で、旧型比約70kg軽いとのこと。オールアルミでないので、残り約半分のスチールと結合して車体を構築する必要がありますが、Cクラスでは、高速でリベットを打ち込んで接合する「ImPACT」と称する方式を開発し、採用しています。量産車種なので、生産性が重要です。

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アルミボディの採用はメルセデス初ではありませんが、量産化を推進してきました。左から、2010年のSLS AMGが日産20台、2012年のSLクラスが日産140台、2013年のSクラスが日産400台、そして2014年のこのCクラスで日産2000台に達しています。まさに「技術の進歩」、「実用化」の見本です。

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アルミ使用箇所が緑色で示されています。ボディ外板は大半がアルミであるのがわかります。

【外観デザインについて】

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ヘッドランプの目尻からボディ側面に伸びるラインなどが、かなりシャープなプレスラインになっていますが、全体にソフトシェイプなのが最新のメルセデスの特徴です。メーカー発表でCd値0.24と、意欲的な空力性能ですが、見た目にもスマートな佇まいで、スポーティさを感じます。

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ふたつ上級のSクラスによく似ていますが、真横から見るとCクラスはロングノーズが目立ちます。フロントタイヤがかなり前寄りにありフロントオーバーハングを詰めています。FR車ならではのデザインですが、アウディも含めてそういうことができないFWD系のクルマに対するあてつけのように思ってしまいます。

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リアから見ると、ボディ上屋を横の富士山と同じように、上側を絞り込んでいるのがわかります。

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テールランプはこのように光ります。左にSクラスが見えています。並べてみるとCクラスはコンパクトです。街で単独で見ても、とくに後方からだと絞り込みのせいもあって、Cクラスはかなりひきしまったクルマに見えます。デザイン的には先代Cクラスと共通性はあるのですが、一新された印象で、これが最新メルセデスのデザインかと、思わせる新しさがあるようです。

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フロントガラスに「Carl Benz」の文字が入っているのを発見。カール・ベンツの1885年のガソリン自動車発明から125周年を記念するイベントがドイツでありましたが、詳しくは不明ですがなにかそういったものに関するものらしいです。広報の人の話では、Cクラスからこの文字が入るようになり、期間限定のもののようです。

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ひょっとしてと、リアウィンドウを見たところ、こちらにはステッカーで「G. Daimler」の文字がありました。

デザインも技術も、大胆に新しいものを盛り込まれた最新Cクラスは、メルセデスとしての力作であると思います。この出来映えから、もうEクラスはいらない、という声も聞きましたが、個人的には率直な感想では、ひとまわり大きいEクラスの落ち着きが、メルセデスとして味わい深いと感じたのは事実です。しかし保守的なユーザーを相手にして旧態化に陥るままにならないのがメルセデスで、時代の先を行く新しさを取り入れて行くのがすごいところです。1885年以来、100年以上の間に、何度も大胆な刷新を経験して今に至るのだろうと想像します。やや大げさな結論ですが、最も古く最も新しいのがメルセデス、と感じさせた、最新のCクラスでした。


(レポート・写真:武田 隆)

リポーターについて

武田 隆(たけだ・たかし)

1966年東京生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科中退。出版社アルバイトなどを経て、自動車を主体にしたフリーライターとして活動。モンテカルロラリーなどの国内外モータースポーツを多く取材し、「自動車アーカイヴ・シリーズ」(二玄社)の「80年代フランス車篇」などの本文執筆も担当した。現在は世界のクルマの文明史、技術史、デザイン史を主要なテーマにしている。著書に『水平対向エンジン車の系譜』 『世界と日本のFF車の歴史』『フォルクスワーゲン ゴルフ そのルーツと変遷』『シトロエンの一世紀 革新性の追求』(いずれもグランプリ出版)がある。RJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)会員。

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