最新世代のミニは、基本のハッチバック・モデルは、3ドアのほかに5ドアも揃って、ラインナップを強化しています。3ドアのクーパーに試乗した印象を中心に、ミニ・ワン、クーパーS、5ドアの印象も加えて報告します。
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新型ミニは、まず3ドアが、昨2013年11月の東京モーターショーで初披露されました。英国に加え、アメリカと日本で同時のワールドプレミアでした。ミニにとって日本は重要な市場です。
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これは2014年10月に追加発売された5ドア。のちほどレポートが出てきます。
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モーターショーでは「ワールドプレミア」がアピールされていました。スクリーンの画面には、東京タワーや新宿の東京モード学園のビルなどが絵柄として使われています。ロンドンっ子?のミニのおめがねにかなったのが、こんなイメージの東京、日本ということでしょうか・・・。
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これはその後2014年3月の新型ミニ発表会での光景。会場には旧オリジナル・ミニも一台置かれて、1960年代英国のカルチャーが登場するビデオ映像が流れていました。初代ミニの誕生は1959年のことで、その革命的小ささから脚光を浴び、1960年代の若者文化のムーブメントに乗って日本にもやってきました。ロックミュージシャンなどにはミニに未だにしびれている人もいるようです。とくに日本ではモデル末期の1990年代などには本国をしのぐほどの人気となりました。そしてその後BMWがその価値を認めて、傘下に収めました。
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旧ミニは4気筒エンジン横置き前輪駆動のパイオニアで、自動車のスペース効率で革命を起したクルマです。それと同時に、流行に敏感な人に、クールなクルマとして特別にアピールするものがありました。とくにそのセンスのよさを新生のミニは引き継いでいる、といえます。
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発表会場では、このように1959年以来の歴史がパネルで展示されました。ミニはもともと車名にすぎなかったのが、今ではいざ正式車名を言おうとすると、ミニは車名なのか、ブランドなのか、迷うような感じになっており、あきらかにブランド化しています。ブランドになるだけの歴史というか、神話を単一モデルの一代で築いたわけで、希有なことです。BMWもその後の育て方がたいへんうまいと思います。
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【外観などについて】
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さて、これは昨年試乗した広報車のクーパーです。こうして見ると非常に伸びやかなスタイルです。
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歴代ミニを並べるとこうなります。歴代といっても、オリジナルのミニは約40年間つくられ、BMWがニューミニとして新型を新規開発し、それが3代続いています。BMWになってからの3世代のミニは、外観は大きく変わっておらず、ミニを気にかけて見ている人でないと区別がつかない感じです。今後4代目、5代目が出ても大きく変わらないかもしれません。
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最新型のミニは、ベルトラインが高めで、フロントもライトの位置が高くなっています。安全面からの要請と思われますが、先代よりもボディ外寸は少し大きくなっています。
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【内装について】
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試乗したクーパーのコックピット。このクルマは6速MTです。ミニは初代がセンターにメーターを備えていたのがトレードマークで、新世代ミニもその伝統を継いでいます。しかし最新型ではそれがアナログでなくなりました。このダッシュボードは、ポップな丸や凹凸の多いデザインになっており、いわゆる機能主義的なすっきりしたデザインではないので、乗ると最初少しおちつかないものがありました。ただ、乗っているとだんだん慣れてくるのが不思議でした。機能的には別に問題がないからだろうかと思います。
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そのセンターの「丸」ですが、アナログの時計などではなく、ナビパネルが入っています。工業製品は一般に四角が空間効率がよく合理的、というのが20世紀初頭以来モダンデザインのモットーだったわけですが、このナビ画面は、丸い枠のなかの一部しか使っていないので、もったいないスペースが多いような気がしてしまいます。ナビ画面も丸にできれば最高なのだろうと思いますが、そうもいかないのでしょう。そんなよけいな感想はさておき、このナビパネルは横方向には比較的広く、8.8インチと大型で、ナビとしての実用性は良好と思います。後述しますが、ダイヤルの操作性もよいと思います。
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余談ながらこのナビ画面をスクロールしていくと、このようになり、地球が丸いのを確認できます・・・。コントローラー・ダイヤルを回すだけで瞬時に縮尺を変えることができるので、ここまで縮小されたわけです。ミニ特有のこの丸いパネルに合わせた演出かと思いましたが、どうもそういうことではないようでした。
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この丸の縁の部分は、状況によってLEDランプが各色に発光します。
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スピードメーターは260km/hまでふってあります。タコメーターが左側。右側は燃料計です。
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これはクーパーSの内装。シートが充実したものになっています。ダッシュボードの樹脂パネル部分のデザインは、いろいろなパターンが選べます。
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これは試乗したクーパーに採用されていたダッシュボードパネルのアップ。「ファイヤーワーク」と称するもので新型の新作だそうですが、現代的でした。
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後座はあまり広いとはいえず、ヘッドルームは十分ですが、前席に大柄の人が乗ってくつろげるポジションにしようとすると、後席の膝スペースは苦しくなります。全長4459mmもあるので、最新のミニはスペース効率を最優先したクルマではないことがわかります。ただ、後部の荷物スペースはこのように確保されています。
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【走りの印象】
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試乗したクーパーは6速MT車でした。ギア比が少し高いようで、きびきびと走ろうとすると、街中などはずっと低いギアで行ってみたくなる気分にもなります。ステアリングは握りも太く、しっかりしたクルマと思わせます。
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エンジンは新設計の3気筒です。パワーは136psと十分にあります。3気筒らしさが場合によっては感じられなくもないですが、まわしたときの軽快感は良好でした。一般に3気筒は4気筒よりフリクションが少ないので、回転の軽さは感じられるようです。ちなみにアイドリングストップもありますが、エンジン始動時の振動が少し気になる感じでした。
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シフトノブ前方の5つ並んだトグルスイッチのうち、まん中の赤いのがイグニッションスイッチ。シフトノブの付け根の台座の、樽の輪切りのようなデザインの丸い枠は、ドライビングモード選択のスイッチで、手前にあるつまみを左へまわすとSPORT、右へまわすとGREEN(エコモード)になります。さらに手前の丸いダイヤルがナビのコントローラー・ダイヤルで、使いやすい位置にあります。
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その走行モードの選択をするとこのような画面が出ます。これはノーマルのモードです。
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SPORTモードを選択すると、このようになります。エンジンのプログラムがスポーツ重視になって活発になるうえ、試乗車はダンパーを締め上げる機能を持つ「ダイナミック・ダンパー・コントロール」仕様であったので、サスペンションも硬くなります。エンジンは、ノーマルモードでも窓を開けていると、アクセルオフでターボのブローオフバルブの音がかすかにしますが、SPORTモードにするとそれが目立つようになり、ちょっとした刺激です。
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ミニのクーパーということで、少し山道へも行ってみました。そこで感じたのは、あまりタイトでツイスティなコースをがんばって走るタイプではないかなということです。サスペンションもそれほど硬派なものではなく、がんばろうとするとタイヤがまずねをあげました。ただ、俊敏さは運転していて感じられ、セッティングの演出もあるのかとも思いますが、ゴーカート的な機敏さを楽しめます。あたりまえではありますが、昔のモンテカルロラリーのような走りを求めるのはノーマルのままでは無理で、クーパーSでもまだ足りず、JCWぐらいが必要かもしれません。
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むしろむいていると思ったのは、中高速コーナーが続くルートを、気分よく駆け抜けるような場面でした。ハッチバック・ボディでありながら、ボディ剛性がかなり高く、サスペンションもしっかりしているようです。
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ミニはゴーカートフィーリングが売り文句ですが、もはやフォーミュラ、といっては大げさですが、単なるゴーカートの域を超えている感じがします。乗り心地は、十分しなやかで、上質なものと思います。SPORTモードでは硬めですが、ガチガチなものではありません。
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その後、短時間クーパーSに乗る機会がありました。タイヤサイズは205/45R17と共通ですが、クーパーより足は硬めです。ただしボディ剛性が強固なので不快感はなく、「ダイナミック・ダンパー・コントロール」で硬くなったときでも、意欲がある乗り手であれば町中でも大丈夫そうです。エンジンはクーパーSは4気筒です。とくにSPORTモードではがぜん活発になり、勇ましい雰囲気も漂わせ、ゴボゴボというアフターファイアの音さえも楽しめます。
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ミニONEも短時間体験しましたが、乗り心地はいちばん快適で、ふつうに乗るならおすすめです。外観デザインもミニとしては基本は同じです。ただエンジンが3気筒でもクーパーよりは少しグレードが落ちる感じはしました。
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【5ドア】
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2014年秋に導入された5ドアです。5ドアは従来のミニにも、クロスオーバーとしてありましたが、セダン系では初めての展開です。前から見るかぎり3ドアと同じです。
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後から見ても、それほどは3ドアと印象が変わりません。ラップアラウンドのウィンドウもそうさせているようです。ただし、リアゲートの角度は寝かされており、バランスをとるようにデザインされています。
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実はAピラーから後方は新規のデザインです。実質的に大きな違いとして、おそらく剛性確保のために、窓枠がついています。
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前席は3ドアととくに変わらない印象です。
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最大の違いは後席です。ホイールベースが100mm伸びており、膝スペースは十分確保されています。ただし後部ドアの大きも小さめで、このクラスの5ドアハッチバック車としては、広いほうではないです。センターにはドリンクホルダーがあり、5名乗車したときは、まん中の一人はこれをまたぐことになります。膝スペースは十分ですが、ヘッドルームはそれほど余裕はないようです。
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全長4000mmなので、ある意味当然ですが、荷物スペースは十分あります。ボディが長くなっただけ、雰囲気は少し変わりますが、ミニ特有のスタイリッシュなところは、5ドアにも同じようにあると感じます。
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クルマとしてしっかりしたつくりだと感じたミニでした。BMWにもいよいよFWD車が導入されてメカが共有されることになり、グループのいわば本家ブランドにも耐えうるクオリティが、弟分(?)のミニにも与えられたのではないかと推測します。BMWと共用することでミニの実力が強化されたような印象です。ただミニがあることで、BMWにも前輪駆動モデルが展開できたわけです。前輪駆動はコンパクトカーにはとくに向いており、基本的に軽量な設計なので、エコだともいえます。台数の多いプラットフォームでもあり、グループとしてはこれを展開できることの意味合いは大きいと思われます。なにはともあれ、基本の実力が上がったうえに、5ドアという有力なバリエーションも投入され、ミニ・ファミリーはますます充実していくのだろうと思います。
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(レポート・写真:武田 隆)