ダイハツ・コペン(ローブ)に試乗した報告です。試乗会場にて開発段階でのショーカーやデザイン画の資料なども見せていただいたので、後半で紹介します。11月に追加発売された市販型エクスプレイの写真も紹介します。
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試乗会は7月だったので若干時間がたっていますが、印象を報告します。
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これは11月に追加発売されたコペン・エクスプレイ。あとでまた出てきます。
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4月に試乗した試作車は、内装が未完でした。7月に初対面となった内装は、特別凝った意匠はなくても、スポーツカーらしく、また軽自動車らしい好ましい簡潔さを感じました。高価格スポーツカーにはもちろん及びませんが、内装各部の質感もまずは十分の印象です。これはCVT車の内装で、この車両はナビパネルが付きます。この車両のようにシートなどがベージュで、トリム類がブラウンというのが標準。フロアマットのチェッカー模様も雰囲気良好です。
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これはMT車。この車両はナビなしですが、このブラックの内装はオプションになるようです。黒と銀の2トーンの世界。コペンは外板樹脂パネルが交換可能ですが、内装も、写真の矢印の部分3カ所のパネルがデザイン変更可能とのことです。
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これもMT車の室内。屋根を上げてドアを閉めると、さすがに空間としては狭い世界ですが、シートは一人前の立派なものです。
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これが標準のシート色。ファブリックで、上質感があり、ホールドも充実しています。
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これも標準の内装色。ドア把っ手のあたりなど、軽自動車とは思えない、なかなかあかぬけたデザインです。
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初代から引き継いだ電動格納式のルーフ。オープンボディありながら、屋根の上げ下ろしや手入れ、雨漏りなどの心配がないので、万人に受け入れやすいものです。ただ、こういったものをわりきればもっと軽自動車らしく安く手軽に買えるクルマになるかもしれないと考えないわけでもありません。ドレスフォーメーションも、価格面では割高になるものではあります。今後たとえばホンダからライバルモデルの登場も予想されるし、単に安さだけのクルマをつくっていてはだめということなのかしれません。
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エンジンは基本は従来からあるエンジンですが、各部を変えて7500rpmまで回るようにしたとのことです。スペックとしては、64ps/6400rpm、9.4kg-m/3200rpm。
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MT車のメーターパネル。CVT車もほとんど同じのようです。
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CVTもミラ・イースのものがベースですが、スポーツカー用に力を入れて開発したとのこと。マニュアルモードが選択可能で、すばやい変速スピードをものにしています。コペン用として、油温対策などもしたそうですが、コンピューターのマッピングの変更が主たる改変内容だそうなのでコストはかかっていないはず。価格はCVT車のほうが安いようです。7月の時点で、注文は75%がCVTとのことで、想定どおりだそうです。スポーツカーであってもやはりAT免許のユーザーを取り込む必要性も大きいとのことです。
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外板パネルが取り外し可能な、Dフレームのシャシー。基本はミラ・イースと同様のモノコックですが、各部を補強して、外板なし、屋根なしで十分な剛性を確保しています。開発時に通常のモノコックの屋根と外板を外した状態で剛性を試してみたところ、20%落ちていたとのことです。そこから大幅に補強しているわけです。
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各部にバーを足すなどしています。青が乗り心地に効く部分、赤が操縦安定性に効く部分。
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展示用の車体も、上のパネルと同じ色に塗られています。たとえばこの後部の赤い部分は、後車軸より後方のオーバーハングの部位ですが、ここの補強も操縦安定性に効くのだそうです。
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サスペンションは、ムーヴ/タントのものがベースで、ブッシュやジオメトリーを見直して補正して仕立てられています。具体的にはたとえば、フロントのストラットのアッパーマウントを低くして、ストロークを短くしています。ただストロークは旧型コペンよりは長いそうです。またウレタンのバンプストッパーで、底付きを緩和しています。
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【試乗の印象】
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このときの試乗では、前回に続いて悪天候に見舞われ、山間のワインディング路まで上っていくのは断念。そのため、本領発揮の場面は体験できませんでしたが、とにかく一般道にこぎ出して走り始めたその瞬間、ひたひたと走る足つきに、軽自動車とは思いにくい上質感を感じました。しっかりしたボディに、念入りに仕立てられた足回りが、そうさせたのだと思います。いろいろな場面を走ると、やはり乗り心地などで軽自動車ベースの足の限界を感じさせることもあるという声も聞きますが、走りを重視することでは、本当に力が入った開発なのだと思います。
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エンジンは基本は通常の軽自動車と同じ3気筒なので、その面影は残っていますが、トルクも低速から十分あるし、高回転まで回る気持ちよさもあります。そしてMTでもCVTでも、気持ちよく操作できます。
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上級車にせまる部分もあるコペンですが、絶対に逃れられないのは、その小ささ。こればかりは、トールワゴンのように上方に空間を伸ばさない限り、おそらく改善できないものです。とはいえ、それこそがこのクルマの醍醐味です。大型のスポーツカーがガンダムのようなロボットに乗り込んで操縦しているとすると、コペンは着ぐるみを着て動きまわるぐらいという感じ。スポーツタイプ車でよくいわれる人馬一体とは、ちょっと違う意味のさらなる一体感を感じます。
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そうなるとふりまわせそうな気がしてしまいますが、これほど小さくて、軽くても、安定感があります。今回、わずかの機会に、ブレーキを残して下りコーナーに飛び込むことも試してみましたが、なにごとも起きる気配がありませんでした。
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タイヤは165/50R16という細いサイズですが、車重も軽く、MTで850kg、CVTでも870kg。ホイールベースが2230mmというのは、超ショートで超クイックといわれた昔のランチア・ストラトスとほぼ同じです。しかし現代のコペンは、安定しています。もちろんFFということも、安定性にはつながっているかと思います。
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【外観デザインについて】
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試乗会ではチーフデザイナーの和田広文さんをはじめ、デザイナーや車体担当の方に話を聞くことができました。2010年頃から次期コペンの作業が始まったということです。
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これは開発初期のモックアップ。2011年はじめ頃のコペン・チャレンジ・プロジェクトで提案されたもののようです。このときは、外板取り外し式ドレスフォーメーションが決定されていなかったかとも思えますが、右上の「γ」は、この11月に発売された「エクスプレイ」に近い形に早くもなっているようです。「α」と「β」は、今回試乗した「ローブ」とはだいぶ異なりますが、そこかしこに面影が見られます。「α」が市販型「ローブ」に進展したのかなとも思えます。
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これより以前には、いろいろスケッチが書かれていたそうですが、今回のデザイン開発ではスケッチを書くことが通常より少なく、ぶれることなくデザインが決まったとのことです。
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これは、2012年ジャカルタ・モーターショーに出展されたもの。早くも市販型「ローブ」が、ほとんどできあがっています。フロントまわりの造形など、なかなかかっこよく斬新という印象です。
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これは2011年東京モーターショーに出展されたもの。上の黄色いクルマが「D-R」と称するのに対し、「D-X」と書かれています。その後「X(クロス)」という名前を経て、市販名は「エクスプレイ」となりました。
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これはほぼ市販型「ローブ」に近いスケッチ。コペンは2013年東京モーターショーで、大々的に発表されますが、そのときの展示車両は、細部がまだ市販型と異なっていました。
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これが2013年東京モーターショーの展示車。「ローブ」に相当するモデルで、「RMZ」と称されていました。ヘッドランプの下の部分が市販型と異なり、"2階建てライト"のようになっています。
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これはモーターショーで「XMZ」と称されていたもので、「エクスプレイ」に相当。グリルパターンなど細部が市販型と異なります。
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デザイン開発で重視された、基本的なボディラインについての、おそらくは社内のプレゼン用の画像。「号口コペン」とあるのは、先代コペンのことです。DR、DXともまったく先代から変わっていますが、デザイン開発では、そもそも"変えること"を目指したということです。先代は5万8000台販売されたけれども、その程度の台数ではしょうがない、もっと多く生産する車種とするために、広く受け入れられるデザインにしなければと、危機感を背景に、開発されたということです。DRは「ダブルスウィープシルエット」と称して、フロントフェンダーとウェストラインが2本強調されていますが、DRもDXも後ろ上がりのウェッジシェイプのラインが、基本になっています。先代コペンは、このウェッジシェイプがないのが特徴でした。後ろ上がりのウェッジシェイプは、動的でアクティブな印象を演出します。
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もうひとつ、上の図でよく見ると、DRのイラストに、「FF駆動の表現」と書かれています。フロントに動力源と駆動力を置いていることを表現したかと思われます。一般的にはスポーツカーはミドシップや後輪駆動がスマートと考えられる傾向がありますが、コペンのデザインにこういう意図があったとは興味深いところです。とくにミドシップと比べるとFFスポーツはフロントのマスが大きくなる傾向があるはずですが、それに対処したり、それを活かしたりしながらデザインされたのかもしれません。
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これは旧型コペン。旧型は、古典的流線型の丸っこいスムースなボディ形状でしたが、上述のウェッジシェイプの要素が見事にまったくなく、スピード感や力強さを強調していない印象でした。そのいっぽう、このデザインの醸し出すある種のチャーミングさは、オーナーにはもちろん、一般の人にも訴えるものがあったかと思います。今回話を聞いたところでは、旧モデルのデザインを引き継がないのはもったいないという声がたくさんあったそうです。ただ、やはり今までと同じではダメという認識であり、デザインを変えるというチャレンジを選んだということです。旧型が"かわいい系"だったので新型は"スポーティー"に変えたのですか、と聞いたところ、そうではなく、旧型も別にかわいいことをねらったのではないということでした。思い返すと旧型が登場する2002年の4年前に、デザイン的に注目されたアウディTTが登場しており、TTの場合、独特な"ドイツ的モダンデザイン"のように受けとられましたが、同じように、ウェッジシェイプのない丸いボディでした。
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今回、変えた、ということでひとつ思ったのは、ダイハツらしさのデザインとはなんだろうということですが、デザイナーの方にちょっと聞いたところでは、それが必ずしも明確にあるわけではなく、しいていえば親しみやすく、広く受け入れられるところにあるようでした。旧型コペンと新型コペンを考えたとき、旧型の存在感がけっこう強かったので、少なくともモデルチェンジした時点の感覚では、「コペンらしさ」というと、旧型というイメージです。では「ダイハツらしさ」というとどちらかといえば、もしかすると、新型なのかもしれません。表現がむずかしいですが、個人的には近年のダイハツ車のデザインは、なんとなく"オーセンティック"と思うことがあります。軽自動車でありながら、本格的なデザインにしようとしているような感じがどこかあるような気がします。それはたとえばしっかりディティールをつくりこんでいるというようなことですが、新型コペンのデザインも、そんな第一印象でした。
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市販型「ローブ」は、ボディサイドの、斜めに後方に向かってひかれたラインが目立ちます。超プレーンなボディだった旧型とは大きく変わり、新たなトレンドに沿っていると感じられます。新型でもうひとつ変わったのは、リアデッキ後端ががストンと落ちる形状になったことで、リアの揚力の発生を抑えるデザインにしています。上述のアウディTTが、リアが高速域で浮いてしまうために、途中でスポイラーを追加したのはよく知られています。速度域が違うとはいえ、コペンも同様に変更されたようです。
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サイドのプレスラインは、リアのトランクリッドにまで及んでいます。ちなみにコペンの場合、外板は樹脂製なので、プレスして成型するわけではありません。リアのランプは牙を生やしたように、下側に伸びているのが特徴的です。このとき同行のコペンを追走する機会がありましたが、ライトが点灯すると、この縦のアクセントが効いてくるようです。
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前側も同様に、ヘッドランプ下に縦の線が伸びています。某有名ヘビメタバンドのような意匠ですが、ライト類に関しても、デザイン面でチャレンジしているようです。
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デザインチームとしては、ダイハツでは、通常実用車ばかりを扱っているので、デザインするにあたって、スポーツカーの頭にならすために、世界の名だたるスポーツカーをいろいろ見たということです。そのなかには、たまたまスタッフが持っていたBMW Z4もあったそうですが、個人的には新型コペンを見て思い浮かべたのは、そのZ4です。とくに初代のZ4は、独特で大胆なプレスラインが入っていたことが特徴で、トレンドセッターにもなったかと思います。コペンもプレスラインが強く入っているのでそれを思ったわけですが、ただその入り方はまったく違うし、全体的にも独自のデザインです。こうしてみるとなかなか精悍で、街中で存在感を発揮するかと思います。
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ちなみに、コペンのボディ外板のうち、ドア部分だけは金属製で、交換不可能です。コペンはドレスフォーメーションによって、外部カスタマーによる外板オリジナルデザインへの交換を可能にしています。外部デザイナーのためには、ドアを斜めに横切るラインがないほうが、デザインの制約がないと思えるのですが、デザイナーの方の話だと、そういうことを意識してこの(「ローブ」の)デザインをしてはおらず、とにかくあくまで一台の完成形のクルマとしてデザインしたということでした。ドレスフォーメーションで外観が自由、ということがコペンの大きな注目点ですが、それはそれで別の話であり、新型コペンのおそらく看板モデルといってよさそうな「ローブ」は、1台の新型車としてしっかりデザインされたようです。ちなみに「エクスプレイ」のほうは、ドアのラインの入り方がまったく異なります。
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これが市販型の「エクスプレイ」。ドアパネルの分割線自体は同じですが、プレスが異なっています。なので「ローブ」とは外板パネルの互換性がなく、互いにパネルを付け替えることはできません。今後サードパーティから着せ替えパネルが発売された場合、「ローブ」用、「エクスプレイ」用に、それぞれのものが展開されることになるようです。
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リアはこんな感じです。プロトタイプと違って、ブラックの部分がつや消しではなくなっています。ブラックの部分は別パネルではなく塗装による色分けで、基本的には外板樹脂パネルの分割線は「ローブ」と同じです。物理的には、「ローブ」のパネルも付けられなくはなさそうです。ちなみに「エクスプレイ」は「ローブ」とまったく同じ価格です。販売の比率としては、メーカーとしてはだいたい35%ぐらいが「エクスプレイ」と想定しているようです。
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新型コペンは、不特定多数向けのTVCMをしないなど、顧客とのコミュニケーションも時代にあった新しいもの、スポーツカーに適した形を試みています。ドレスフォーメーションもその一環といえます。そしてこれもその一環といえるのかどうか、田宮模型のミニ四駆でも発売されています。たまたま都内デパートの模型イベントでそれを見かけたのですが、出て間もない実車も展示されていました。
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こちらはそのときのコンテストの応募作品の一例。塗装をしただけですが、"たいへんな力作"です‥‥。ドレスフォーメーションで今後さまざまなデザインが市販化されるはずですが、どんな作品が出てくるのか、ワクワクというかドキドキというか、注目です。ちなみにこの2台は、右は6歳、左は4歳の愛好家による作品でした‥‥。老若男女にしたたかにアピールするコペン‥‥。
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東京オートサロンでも、ミニ四駆のサーキットがつくられて賑わっていました。
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これはオートサロンで展示された、「Xm1」と名付けられた「X(エクスプレイ)」の一例の車体。ドレスフォーメーションでは、こういった模型的感覚に新しさがある気もします。ある種のクロスカントリー車のように、飾らない"樹脂らしさ"がストレートにある車体デザインが、むしろ新しい感じを醸し出すのではないかとも思います。それを考えると、エクスプレイの2トーンカラーが、パネルの分け目を反映していないのは、ちょっと惜しい気もします。この車体は表面がつや消し処理されていますが、一部SUV車のオーバーフェンダーやパンパーのように、無塗装の材着の樹脂をそのまま使ってみたら面白いかとも思いますが‥‥。
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「ローブ」に続いて「X(クロス)」が「エクスプレイ」として11月に発売されましたが、さらに2015年には「第3のデザイン」として、旧型コペンを受け継いだボディも登場予定です。この丸目のモデルは、ドアパネルが「ローブ」と共通なので「ローブ」との着せ替えが可能のようです。その際前後のライトまわりの形状も違うので、そこのパネルも交換になるとのことです。「ローブ」よりこちらを待つという人もいそうな気もしますが、着せ替え可能であればあとからパネルだけ交換することもできるわけで(パネル単体で販売されるかなどはわかりませんが)、果たしてどのようになるのか、興味深いものがあります。新しい試みが多いだけに、今後のコペンの展開は注目です。
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(レポート・写真:武田 隆)