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フォルクスワーゲン・ポロは、8月25日に改良されて新型に進化しましたが、その試乗会に参加した報告です。11月に発売されたクロス・ポロにも試乗しました。
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ポロは、現行モデルの欧州初登場は2009年でしたが、今回の改変では外観はほとんど変わっていません。安全装備を充実させたほか、現行ゴルフに先に搭載された新開発1.2リッター4バルブTSIエンジンを搭載し、燃費を向上させています。
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今回試乗したポロTSIコンフォートライン。こうやって見ると、従来からほとんど変わっていないように見えます。
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リアビューは、バンパーまわりのデザインなどが少し変わっています。
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フロントは、グリルとアンダーグリルに、水平線のスリットが密に何本も入ったほか、アンダーグリルにフォーミュラカーのウィングのようなフィンが付きました。水平の線を強調するデザインは、近年のフォルクスワーゲンの方向性です。緻密な水平線を強調するグリルのデザインは、クルマの雰囲気を精緻で上品に見せているようです。この新グリルによって、従来よりも心なしか高級感が増した印象です。
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ちなみにこれは2014年に欧州で導入されたばかりの最新型パサート。ヘッドランプ部も含めて、車幅いっぱいに水平にクロームの線が伸び、グリル内にも3本細い線がひかれて水平の線が強調されています。パサートはインテリアも、天地の薄い横長のデザインで構成されているのが目をひきます。
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新型ポロのコックピットでは、ステアリングホイールがゴルフと同じものになったようです。パワーステアリングは電動式になりました。メーターパネルなども少し変わっています。
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エンジンは従来の1.2リッターTSIを4バルブ化したような成り立ちですが、フォルクスワーゲンの新世代モジュラー車台のMQBに合わせて、後方排気の搭載に変更されています。ちなみにポロ自体は、まだMQBではありません。新1.2TSIエンジンは、90ps/16.3kg-mで、燃費は約5%改善したとのことで、JC08で22.2km/L。車重は1130kgです。
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ポロは後席もなかなか充実しています。広さ自体はそれほどではありませんが、フィット感が非凡なものがありました。
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給油口の蓋の裏に、タイヤの空気圧が書かれています。標準空気圧は前2.6/後2.4ですが、少し低めの前2.3/後2.1も付記されています。そこに「!」とマークされて説明書を読むよう指示していますが、燃費が落ちる場合もあると書かれていたかと思います。昨今とくに軽自動車などで燃費の数値重視で高い空気圧設定のクルマが多いですが、このように次善の空気圧を指定している例は珍しく、フォルクスワーゲンはこのポロから、低い空気圧の併記を始めたようです。ポロも、標準では若干乗り心地が硬い感じがあり、アウトバーンのような高速域ならともかく、日本では低い方の空気圧設定でよいのではないかと思われます。
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【試乗の印象】
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今回、走り始めでは空気圧は前2.6/後2.4に設定されていました。そこで高速道路へまず向かったのですが、同行したご意見番の方から、これでは硬いという指摘があり、高速セッションを終えてから前2.3/後2.1へ落とし、山道へ向かいました。2.6/2.4でも、ドイツ車ならこの程度の硬さかと思えなくもないのですが、2.3/2.1では角が丸くなり、あきらかに乗り心地がしっとりとして、快適になりました。山道ではある程度ハードに走りましたが、2.6/2.3のほうが若干シャープだったかもしれませんが、2.3/2.1でもしっくりくる走りでした。タイヤは185/60R15で、コンチネンタルのコンチプレミアムコンタクト2でした。
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ポロで今まで山を走ったことはなかったですが、これほど気持ちよく走れるとは思いませんでした。やはり実用車なので、ロールはするし、パワーもそれほどはないのですが、4輪の接地が安定して、ステアリングが正確なので、そこそこ攻めたててもラインを正確にトレースし続けて、ツイスティーなワインディングを楽しむことができました。この程度ロールがあるほうが、姿勢の変化を調整しながらの、運転の楽しみがあり、気負わずに低いスピードでもスポーツドライブを感じられてよいかと思います。優秀な変速機DSGも、こういった場面でストレスを感じさせません。
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多少とばしても、滑らかに気持ちよく走れるのは、人間のフィーリングに合うよう、熟成されているということかとも思います。足回りなどはマイナーチェンジで目立った変更はないようですが、初期型より熟成されているという声も聞きます。走りの上質感を、このクラスでも確保しているのが、さすがフォルクスワーゲンというところでしょうか。走りに限らず、ポロは内装デザインその他あらゆる面で上質です。この面でキャッチアップしようとしているのが、マツダの新型デミオといえそうですが、ポロはやはりコンパクトカーとして世界のベンチマークを自負しているようです。
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新型ポロの注目点のひとつは、アダプティブ・クルーズコントロール(ACC)。レーダーを活用して先行車を追走し、高速道路のみならず、下道でも作動を続け、最終的に信号などで停止するまで、加減速を繰り返して追走します。高速道路では、前が空けばけっこうな勢いで加速し、車線変更すれば、即座に新たな車線の先行車の追尾を開始し、停止するときなどは、場合によってはわりと強くブレーキを効かせます。状況を判断して、たとえばなるべくすぐにはブレーキをかけないなど、加減速の効かせ方を、人間の感覚に近いものになるまで、詰めて開発しているそうです。そこに、クルマのほかの部分と同様の、フォルクスワーゲンらしい熟成した開発がなされているとのことです。
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このACCは、ステアリングの操作がない以外は、ほとんど自動運転といってもよい制御がなされる印象です。ひとつ思ったのは、この間、運転手の右足はどこかに休ませる必要があり、とっさのときにブレーキペダルに足を直行できるような右足の置き場がほしいということですが、それくらい、任せっきりにできる感じがあります。基本的にはこのACCは、安全装備ではなく、快適装備ということになります。ゴルフにも搭載されていたようですが、ゴルフの見どころはいろいろあってなかなか試す機会がなく、今回初めて体験しました。新型ポロは、レーダーを活用したいろいろな安全装備を日本仕様では標準で備えており、このクラスとしては卓越しています。ACCはその装備を活かして、オプションで選択できるようにしたものです。
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従来からの色のほかに、新しく設定された色もあるようです。この写真の色の揃えは、ドイツ車らしいというか、フォルクスワーゲンらしい色に思えます。
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左側の青いクルマは、ホイールなどグレードアップしています。今回試乗したベーシックなコンフォートラインの上に、装備類の充実したコンフォートライン・アップグレードパッケージが設定されています。これから順次グレードを増やしていくとのことで、その後ブルーGT、クロス・ポロが加わっています。
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メタリックの赤が新型のイメージカラーになるようです。
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これは後日追加されたマイナーチェンジ版のクロス・ポロ。ブルーGTとともに、従来のフロントグリルを踏襲しています。このボディ色は従来のトレードマークのオレンジながら、メタリックになったのが新しいところ。短時間試乗する機会がありましたが、クロス・ポロは、特別な装備類を除けば、TSIコンフォートラインの車高のみ上げたような成り立ちです。ただタイヤが17インチを履いており、若干乗り心地が硬めの印象でした。
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足回りの印象が少し硬めでも、シートが立派なものが付いており、そこは快適でした。内装はポロと基本は共通でも、色調などがアクティブでスタイリッシュな感じです。アーバーンクロスオーバーを標榜しており、まさにそんな雰囲気ですが、フォルクスワーゲンらしいというか、欧州でライバルのフランス車勢などがかなりデザインで目立っているのに対し、ポロの標準に採用してもよさそうな落ち着きもある印象の内装です。ステアリングは本革の表皮に滑り止め加工が施されています。クロス・ポロは日本では2006年発売以来7200台販売されたそうです。
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参考までに、従来のポロはクロス・ポロと同じ、こんなフロントマスクでした。グリルの横方向の水平線が、メイングリルの中央に1本のみです。
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これは、さらにそのひとつ前のポロ。これはマイナーチェンジ後の、当時のフォルクスワーゲンの顔であったいわゆるワッペングリルを付けたもので、このポロはあまり街中では見ないかなという印象です。ポロは、国内では1984年以来22万台販売されたそうですが、現行ポロはポロ史上最も売れたボディとなっているようです。
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これは1984年より前の、1975年に初登場した初代ポロ。シンプル、クリーンな外観デザインは、現代のフォルクスワーゲンの源流的なものがあり、初代ゴルフと同世代です。ただしこの初代ポロはアウディにもまったく同じボディが設定されていました。
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ポロは今やラリーの世界チャンピオンで、WRCの最強マシンとなっています。
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今回試乗したポロも、リアウィンドウにこのようなステッカーが貼られていました。2014年も圧倒的強さでチャンピオンを獲得しています。
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(レポート・写真:武田 隆)