アウディ ジャパンはA8/A8L/S8を一部改良した新型を3月に発売していますが、その発表会の様子とともに、「マトリックスLEDヘッドライト」、「フロントデザインの変更」、「インテリアデザイン」などについて報告します。合わせて歴代A8の変遷もふり返ります。
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発表会は渋谷のヒカリエで3月13日に行なわれました。新型A8のトピックスは、電子制御で照射範囲を複雑にコントロールする「マトリクスLEDヘッドライト」ですが、ストップ&ゴー機能まで対応するアダプティブクルーズコンロール他の安全装備を追加搭載するなど、改良は多岐にわたっています。
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発表会場で。天井から大きな照明ユニットが下りてきました。最近のアウディのCMなどで見る装置に似たものでしたが、LEDなのか、有機ELなのか、色が変化します。クルマのヘッドライトのユニット周囲が光っています。
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アウディ ジャパン大喜多社長のプレゼンテーションがあった後、A8商品マーケティング担当のユリアン・レンツ氏が新型の改良項目について説明しました。
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【マトリクスLEDヘッドライト】
新型A8の最大のトピックスは自動でハイビームの照射範囲をコントロールするヘッドランプユニットです。この画像では、前走車と対向車の部分だけを避けて、照射しているのがわかります。
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ハイビームとコーナリングライトが、この図でははっきり3本に分かれています。最大8台の対向車、前走車を照射範囲から除外できるとのことです。ロービームの照射範囲も調整されます。
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左右の各ライトユニットに、それぞれハイビームのLEDが25個あります。個々のLEDは固定されており、カメラで前方のクルマの光を感知して、コンピューター制御で各LEDの点灯をコントロールします。約10億通りの照射パターンが可能とのことです。最近は、自転車でも夕方自動点灯する明るいLEDライトが付いていますが、自動車の場合ここまできてしまったわけです。
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実際のヘッドライト。後で比較しますが、従来型と全体の形状も異なります。下側の外周がポジションライト等で、真ん中がロービーム、その右上部分が上図の「マトリックスビーム」になるようです。
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ウィンカーの点滅は、曲がる方向にイルミネーションが伸びて行くので、視認されやすいとの説明でした。ライトの形状そのものはアンモナイトの化石の断片のようですが、デザイン性が感じられます。
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【インテリアデザイン】
アウディの内装は精緻、高品質で、個人的には昔から趣味が良いという印象です。デザインのベースは機能主義で、過度な自己主張を抑えたデザインと思います。最上級のこのA8は、最新のメルセデスSクラスなどよりもある種クラシカルな印象です。とはいえもちろん世界の高級ブランドの最先端で、ベンツ、BMWというライバルと競合しています。会場では「(価格からすると)3LDKだね」と、苦笑して言う人がいましたが、最上級のW型12気筒を積むモデルは、税込み2085万円です。上の広報写真は日本仕様ではなく左ハンドルのA8Lのもので、ホイールベースが長いので、足もとは十二分なスペースがあります。
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これは会場にあったA8L 4.0リッターのものです(1370万円)。実車に触れると、素材の高級感はやはり惜しみなくある感じです。世界の高級車市場で展開するアウディは、クラフトマンシップを強調しています。"L"は見てのとおりの4人乗り仕様で、センターコンソールにはスイッチ類が並びます。シートは多種多様なものが電動で動く仕掛けです。
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このセンターコンソールは、暗いところではこのように光ります。ある種の宇宙船の内部?のようで、エキゾチックでした。そういう特別感が高級車の必須要件かとも思います。
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リアシートには左右それぞれに、専用モニターが備わっていました。
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同じ車両のコクピット。全幅1950mmもあり、センターコンソールも堂々としています。ナビ画面は格納式です。
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ウッドパネルが高級感を醸していましたが、目立つ部分にシルバーのパネルが使われています。精緻で、メタルらしさのある質感が、アウディらしいように思えました。ボタン類のあり方などに機能重視の姿勢を感じます。
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そのパネル部分。ボタンのスイッチ類が精緻ですが、時計のデザインもこれがアウディの美学という感じを受けます。
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これは別のクルマで、通常のA8ですが、ナビパネルを畳んだ状態。ウッドパネルは虎模様のものです。
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【歴代A8の外観の進化】
これは上の内装のクルマで、通常のホイールベースのモデル。ひきしまったエクステリアデザインで、大きさを感じさせません。全幅は1950mmもありますが、全高は1460mmで、ライバルより若干ですが低いようです。見た目の印象としても低くスポーティな佇まいで、メルセデスのセダンよりは少しジャガーの流儀に近いかとも思います。後席も狭くはないですが、頭上の空間はタイトな感じでした。ただ、メーカーとして機能重視の哲学があり、かっちりしたデザインです。それでも細部を見ると、凝った造形があります。A8はアウディが誇るアルミボディですが、溶接の精度などは高度な技術を駆使しているようです。
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今回の改変で、ボディ外板も細かく変更されているようです。微妙なもので、とくにリアまわりなどは、どこが変わったか、資料を見ないかぎりわからない感じです。
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前側も同様にわかりにくいのですが、実はけっこう変わっています。これはマイナーチェンジ前の従来型です。
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これが今回の新型です。まず新機構のヘッドライトが、外形がかなり変わって、四角く直線的になりました。グリルまわりの形状も変化しています。バンパー下方のエアインレットは左右が繋がって車幅いっぱいになりました。センターグリルがそれにともない下方を少し短く詰めたようです。結果としてグリルは、逆台形の従来型と比べて、横長の長方形になったように見えます。新型は、横幅が強調され、四角さを強めたように思えます。自動車全般に曲線的なオーガニックデザインが普及する昨今、四角さを強めたとするとちょっと意外に感じます。グリルの立派さが強調されたかとも思えます。
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これはメッシュパターンが入るW12のグリルです。アウディの現在のグリルはシングルフレームグリルと呼ばれるもので、元アウディにいた和田智氏がワルター・デ・シルヴァ氏(現フォルクスワーゲン・グループのデザイントップ)の下で手がけた逸話が知られています。下まで全部グリルにした、縦長の大きいグリルということで、インパクトがありました。日本車でも最近クラウンやレクサスなど大きな目立つグリルが出てきていますが、アウディはその先駆け的存在なので、その動向はやはり注目です。
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過去のモデルを振り返ると、グリルは控えめでした。これは1990年代初頭頃のモデルで、V8と名のっていました。グリルが小さいほか、フロントのオーバーハングが長く見えるのも時代を感じさせます。
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これは1994年誕生のモデルで、現行A8の2つ前に相当。グリルは少し大きくなりましたが、まだ横長です。ただ、バンパーの下にシングルフレームグリルの芽生えのようなアンダーグリル風のものが見えます。
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これは2002年誕生の先代A8の初期型です。バンパー下のグリルが前面に出てきました。あとは上下をつなげるだけです。
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そして後期型で、このように上下がつながりました。シングルフレームグリルです。それにしても、ボディ全体のデザインは、現行A8とあまり変わらず、哲学を感じさせます。このあと現行モデルの初登場は2009年(日本は2011年)です。
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発表会では、歴代モデルの日本での販売台数が示されました。今見た上の写真は、第3世代の後期モデルになります。ちなみに新型A8の目標台数は2014年度で650台で、前年比20%増とのことです。少なくともこのクラスでは、アウディはとくに日本において新興勢力といえます。下位モデルは街中で随分見るようになりましたが、A8も増え続けているようです。
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会場には、アウディの技術の伝統などをアピールする展示がありました。オブジェはアルミ製のASF(アウディ・スペース・フレーム)の一部です。
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アウディのクラフトマンシップや技術開発の伝統に関する写真展示。新型A8は、「アウディ100年の歴史、その頂点」とのことです。
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(レポート・写真:武田 隆)