燃料電池自動車の課題 その3

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6.燃料電池自動車のパッケージ

自動車のパッケージとは車両の各寸法、つまり全長、全幅、全高、室内長、室内幅、室内高などをいう。自動車には乗員はもちろんであるが、車両の動力源であるエンジンや燃料タンク、サスペンションなども必要で、それらのレイアウトを行うことによりパッケージが決まる。
ガソリン車の場合、エンジンや燃料タンクなどの形状やレイアウトが似ているため、自由なコンセプトでセダン、SUVなどの車両の種類を決めることが可能であった。しかしFC車の場合は搭載部品が異なるため、従来のガソリン車と同じパッケージとはならず、車両形状が異なってくる。またFC車はガソリンエンジン車と比べると一つ一つの部品が大型化し、またその数が増える。
ガソリン車、FC車、EV車の大物搭載部品の概略図をそれぞれ図10、図11、図12に示す。サスペンションなど、どの車にも同じものが使われる搭載部品は省略し、それぞれの車に特有の大物搭載部品を示している。
 FC車(トヨタMIRAI)の大きさの車を想定すると、ガソリン車は排気量1.5〜2Lの車に相当し、図10に示すようにエンジン+トランスミッションと60Lのガソリンタンク、ラジエターを搭載する。
それに対しFC車は図11に示すようにモーター+リダクションギア、蓄電池、燃料電池、大型ラジエター、燃料電池の冷却水を流すための長い通水パイプ、約110L(50L+60L)の2個の水素タンクを搭載する。
EV車は図12に示すようにモーター+リダクションギアと大きな蓄電池を保有する。

FC車は大物搭載部品が多いことがわかる。またFC車の部品は形状に制限があり自由に形状を選ぶことは難しい。人が乗る室内寸法や荷室寸法を大きくするため、変形させることができない部品が多い。例えば一般的にはガソリンタンクはリアシートの下に形状を薄型にして搭載する場合が多いが、FC車の水素タンクは高圧であるため強度上円筒形にする必要があり、薄型化はできない。そしてガソリン車相当の航続距離を出すため、トヨタMIRAIでは水素タンクがガソリンエンジンの場合の2倍の2個必要である。モーター+リダクションギアの体積はエンジン+トランスミッションよりは小さいが、モーターは回転体で円形であるため薄型に変形させることは不可能で、高さはそれほど低くならない。さらに燃料電池も、構造上厚さ約200mm以上が必要で薄型化ができない。いっぽうEV車の蓄電池は燃料電池以上に体積が大きいが、薄型化や形状に自由度があるため搭載し易い。
燃料電池は高負荷になると発熱量が大きくなるため大量の放熱が必要で、FC車もラジエターの大きさはガソリン車の2倍近くになる。トヨタMIRAIのラジエターグリルを見ればわかるが、冷却能力を高めるため大型ラジエター面積にあった大きな開口部を持っている。フロントのスタイリングもガソリン車とは異なる。また燃料電池が床下にあるためラジエターとの距離が遠く、それをつなぐ冷却水用金属パイプが長くなり、冷却水量も多く重くなる。
これらのことから、FC車のパッケージには制限が大きいことが理解できると思う。燃料電池の搭載位置は車高が低いセダンタイプの車を作ろうとすると、トヨタMIRAIのように車両の下、具体的にはフロントシートの下に配置することになる。シート厚さを極力薄くしても燃料電池があるためヒップポイントが高くなり、乗員の頭がルーフに当たらないようにすると全高が高くなる。トヨタMIRAIより車高の低い車は造りにくい。
車高を低くするための燃料電池の搭載位置を図13に示す。モータールームに変更することが一つの方法であるが、モーター高さはそれほど低いわけではないので縦積みにするとフード位置が高くなり、前方視界を確保しようとするとかえって車高を上げざるを得ないパッケージになる。つまりトラックかジープのような背の高い車になる。
アメリカで初めて試験的に走らせたFC車はモーターの上に燃料電池を搭載したが、その車種は車高の高い大型SUVのクルーガーであった。

その他の搭載位置としては図14のようにモーターの前に搭載する方法があるが、全長が伸びてしまい現実的な方法ではない。
図15に示すようにフロントシートの運転席と助手席の間に縦に搭載する方法も考えられるが、高温の燃料電池が室内に飛び出ていて断熱するのが大変なことと、燃料電池の騒音が聞こえ、これも現実的ではない。燃料電池の騒音とは、燃料電池の停止時に凍結するのを防止するため、発電時に水素が酸素と結合してできた水分をブロアーから空気を送風し吹き飛ばす時の音である。通常のエンジン車であれば異常であるような大きな音がする。また、フロントシート間の狭い空間で太い冷却パイプや高圧電線の取り回しが難しく、シート間の距離が無駄に広くなることと、それにより全幅が広くなり車両重量が重くなる。

燃料電池自動車の課題 その1 で前述したが、FC車は車の中に燃料電池という小型発電所を所有しているので、ガソリンエンジン車やEV車と比較して大物部品点数が多くなり車が大型化することは致し方ないと思う。よってパッケージ面から考えるとFC車は自動車の大きさを小型化をすることが大変難しく、大型部品の質量もプラスされ大変重い車になる傾向がある。その結果燃費も悪くなり、車の用途が限られてくる可能性がある。どんなパッケージの車で従来の車とは異なるコンセプトを創り出すのかが、今後の課題だと考えられる。

続く

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