商品の価格競合の重要性

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最近アパートの建築に興味を持ち始めた。もともとは所有していた土地の路線価が実売買価格より高くて相続対策として始めたのだが、やり始めると実に面白い。しかし、実際にアパート建築をしようとすると価格体系や営業方法が自動車や低額商品とは随分異なるものだと興味を深めた。
下記のように商品ごとに価格帯と、買替期間が異なる。著者が自分の生活で認識している商品についてはこのような区分けになると思う。

商品     価格          買換期間
食料品    100〜1000円   2〜10日
通信機器   2〜10万円      2〜5年
電気製品   1〜50万円      5〜10年
家具     1〜100万円     10〜20年
自動車    100〜500万円   5〜15年
家屋     1500〜5000万円 30〜50年 

食料品のように買換期間が数日の短いものは価格競争が行き届いていてる。「数円でも安いものが現れれば主婦は数キロメートルでも別のスーパーマーケットまで買いに行く」という切実な話を聞いたことがある。価格(自動車などでいう見積もり)はチラシに明示されていて買手主導で売買される。
スマートフォンなどの通信機器なども同様にネットなどで価格が明示されているが、多少説明員の言葉に流されることもある。しかし、やはり買手主導で売買される。
電気製品は、近年に流通革命が起こり、大きな白物家電でない限りAmazonをはじめとするネットショップが安価な傾向にあり、その価格は明示されていて、買手主導である。
家具についてもニトリやイケヤなどの自社開発製品を扱う大型店舗が流通革命を起こしていて価格が明示された商品を買うことができる。
以上の商品は価格が明示されていることから、ユーザーが自分で価格と商品を見比べその価値を判断して自己責任で購入する。

それと比べて高額な自動車や家屋などの耐久消費財は購入形態が異なる。
自動車の販売価格はカタログにグレードやオプションが明記されていて、その選択は自己責任になる。しかし少し違うのが、そこに値引きと下取り、という交渉事が介在することだ。その額は数万円の違いではあるが、うまくいった場合とそうでなかった場合とで商品を購入した時の満足感が変わってくる。
著者はもう30年以上目のことではあるが入社教育の一つとしてセールス実習を行い、実際に自動車を販売したことがある。現在のセールスマンは販売拠点で客を待って販売することが多いが、1980年代は訪問セールスを行なって、客を掘り起こして販売する時代であった。とは言っても夏の暑い日などはとても外回りをする気力もなくなり、販売店を出た後はクーラーの効いた喫茶店に直行し1日を過ごす先輩方が多かった。そのことを知った瞬間に、これまで不思議に思っていた、田舎の田んぼの中にポツンとした喫茶店が存在する理由がわかった。

セールス実習の時の経験から車の購入時のアドバイスをいくつかお話ししたい。
訪問販売は一種の「押し売り」のような印象を持つかもしれないが、現在は販売店での販売であるから、購入者が同じ車を買うにしても数件の販売店をまわって見積もりをとることができる。つまり販売店間で競合させることができ、それが一番購入価格の低減につながる。
購入する方ばかりでなく、売却である古い車の下取りも競合させることができる。まずアップルやガリバーなどの下取り専門店で価格を聞き、おおよその車の下取り価格を把握しておく。その上で販売店での下取り価格を聞いて下取り専門店に売るのか、販売店で売るのか決めればよい。
セールス実習で入社して間もない純粋な若者にとって衝撃的な場面に出会った。親類が車を欲しいと言ってきたので販売店の所長に、
「親類が車を買いたいと言っているので、値引きを多くするとか何か特典を増やしてやることはできますか」と質問すると、
「馬鹿野郎! 親類なら絶対買ってくれるだろう。値引額を減らしてこい」と言われた。要するに競合がなく、相手が絶対に購入すると考えられる場合は値段を下げるなということである。目から鱗で、その後の著者の商品の購入をする際の基本になったと思っている。
購入の際には友人や親類の関係者はなるべく避け、利害関係のない販売店員と交渉することをお勧めする。また販売店員と馴れ合いになって常に同じ店員から購入することも考えものである。
また値引き額が多かったり少なかったりするのは時期によって異なる。販売店には販売台数のノルマというものがあり、達成すると報奨金が得られる。それも目的として必死にセールス活動をするのである。
ノルマが達成できるギリギリのところであって、少々大きな値引きをしても販売した方がノルマが達成され、報奨金が入る場合には値引き額が大きくなる。しかしこの時期がいつなのか判断することは難しい。可能性があるのは月末で、値交渉の会話の中で本人が感じとるしかない。
車の購入ではないが、著者は車を開発していた頃に、競合をするかしないかで部品の価格がずいぶん違う経験したことがある。通常の5人乗りの車のシートのコストは7〜10万円であった。
それまで二つのシートメーカーに競いながらシートを発注していたが、ある時一つのメーカーで作った方が効率が良いという上層部の安易な見解が反映され会社が合併した。その結果は逆であった。
購入側がいくらコストダウンのアイデアを出しても、それが価格に反映されない現象が起こったのである。二つのシートメーカーがあった時よりずいぶん高価なシートになりそうであった。
調達部も社長から部品買い入れ価格を下げるようにと言われ、メーカーに購入価格の低減を要求していたが、一つになったシートメーカーは競合がないためどこ吹く風かという態度で、コストダウンのアイデアは入れるが、購入価格は下がらないという奇妙な状況になった。
著者は調達部門から、今まで全く導入したことのないシートメーカーで生産し購入することを依頼され、コストダウンを協力して行うことにより、その結果マイナス10%の購入価格ダウンを達成することができた。競合は購入価格低減に最も効果のあるものであることを改めて認識した。

家屋の建築はさらに販売価格が高価なため、今までの商品とは全く異なる価格構造になっている。
価格が高額なことだけでなく、家屋は一生に一度しか建築しない場合が多く、買手に値交渉の経験がないこと、また土地の形状によって形状が異なり自由設計になっていることが大きな原因で、建築メーカー主導の価格交渉がなされる場合が多い。
著者は数棟のアパートを建築してきたが、いずれも数社のハウスメーカーの相見積もりをとり、それぞれの仕様と価格の提案を見比べ、価値の高いものを選択し建築を依頼した。決して安い提案が良いとは限らず、高価なものでも価値があると判断すればそのハウスメーカーに決定した。
しかし、次の建築はハウスメーカーが建築条件付の土地を見つけてきて、そこに建てようということになった。するとその建築費は相見積もりを行なった場合と比較して2割近く高額であることが判明した。つまり競合がないと、その建築物はおおよそ1億円であったため1000万円以上割高になるということである。建築費は銀行ローン借り入れで行うため痛みを感じにくいが、30年返済の長期であれば利息がついて倍の2000万円の割高ということになる。
次に、施主が技術的な内容を知らないと価格がアップする例を示す。3階のアパートを建築した場合ハウスメーカーから
「水道水圧が低いため水圧を上げるブースターポンプが必要で、200万円追加で請求します」と言われた。ブースターポンプを一度取り付けると毎年検査やメインテナンス料がかかり、耐久性が10年ほどで取り替える必要があり、単に200万円では済まない。
いろいろ話を聞くとブースターポンプのないアパートも多く変だと思い、市の水道局から推理計算方法を教えてもらって自分で計算を行なった。
表1に計算例を示す。詳細な説明は省くが、足し算引き算の計算でエクセルの表計算に数値を入れれば簡単にできる。

その結果、工夫をすればブースターポンプは不要であることがわかり、その計算を見せたところハウスメーカーも納得し、
「100万円減額します」という回答を得た。追加するときは200万円で廃止するときは100万円でその差100万円はどこに行ったのか問い詰めたところ、最終的には200万円の減額になったが、日本最大のハウスメーカーでもこのようなやりとりが行なわれている。
要するに図1に示すように、ハウスメーカーがコストダウンのため細い水道ホース1本で水を3階まで導水しようとしていたことが原因で、2本の水道ホースにすれば解決できた例である。

その他の値上げの口実は地盤改良がある。改良深さが最初浅い見積もりを出され、後から深くなったことを告げられ値上げ請求される例があった。
地盤改良については2メートルならいくらか、4メートルならいくらか、6メートルならいくらか等の見積もりをとった上で契約を進めた方が良いと思う。
また屋根についてもスレート屋根ならいくら、フラット屋根ならいくら、鉄板屋根ならいくらか見積もりをとり、その後に契約をすることが望ましい。
やはり高額商品を購入する場合は、ある程度の技術的な知識を持っていた方が納得行く価格で商品を購入できる。
後悔しないために家屋の場合の買い方をまとめると、

  1. 相見積もりを行ない、価格と仕様の競合を行なう。
  2. 親類や友人を頼らない。
  3. 自分の技術的な知識を常に磨いておく。
  4. 曖昧な仕様を具体的に表現し、明確にした上で契約を行なう。
  5. 家屋を建築する場合、建築条件付土地購入は避ける。

自動車の場合は仕様ごとの価格が価格表に明示されているから家屋ほどの注意はいらないが、見た目ではわからない運転した時の感覚、著者の得意な走行性能や、音、乗り心地などは車によって随分異なるため、ぜひ納得するまで試乗を行ない価値の高い車選びをしていただきたい。自動車の買い方をまとめると、

  1. 相見積もりを行ない、価格と仕様の競合を行なう。
  2. 親類や友人を頼らない。
  3. 購入時期を研究する。
  4. 試乗を重ね、走行性能の良い車選びを行なう。

高額商品は何度も買い換えるわけにはいかない。ただ安いだけで仕様や性能が伴わなければ後で後悔することになる。

商品の価値=(性能、仕様)/価格

少々高価でも納得のいく価値のあるものを選ぶ必要があるし、また同じ性能、仕様なら交渉をうまく行ない安く購入すれば、さらに価値は向上する。
交渉ごとの得意な方には釈迦に説法だが、高額商品を購入する時の参考になればと思う。

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