ポルシェ・デザイナーに訊く (山下周一氏インタビュー:その1)

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ポルシェ・パナメーラ・スポーツツーリスモのエクステリアデザインを担当した山下周一氏へのインタビューを、3回にわけて掲載します。

2017年東京モーターショーでは、パナメーラ・スポーツツーリスモが日本初公開となりました。スポーツツーリスモは、車名に冠されてもいるとおり、通常のセダンのパナメーラから派生したモデルですが、ポルシェにとっては新しい車型の導入となります。ひらたく言えばパナメーラのワゴン版ですが、「すべてのポルシェはスポーツカーでなくてはならない」と自負するポルシェは、このクルマを「ワゴン」ではなく、あえて「スポーツツーリスモ」と呼ぶことにこだわっています。

東京モーターショー会期中に、このスポーツツーリスモのエクステリアデザインを担当した山下周一氏に話を伺うことができました。山下氏は、メルセデス・ベンツ、サーブを経て、2006年以来ポルシェに在籍、ヴァイザッハ研究所にエクステリアデザイナーとして勤務しています。

まずは、ポルシェ車をデザインするうえでの、基本的なことについてお聞きしました。ポルシェであるためには、ポルシェDNAをクルマに与えることが重要であるといいます。今回の前半では、パナメーラのセダンも含めて話を聞いています。

■「ポルシェDNAというのはつまり、我々のなかでは911です。ポルシェのDNAを、ポルシェすべてのクルマにふりわけていかなければいけないというのは、ルールではないですけれども、社内的な認識があります。たとえば(通常の)パナメーラの場合、4ドアのクーペ、4ドアのサルーンですが、それにいかにポルシェのDNAを付帯させて、なおかつクルマをどうやって新しく見せていくのか、というのがいちばんのテーマです」

かつてポルシェには1970年代に914や924、さらに928など、911とはやや異なる方向性のクルマがあったものの、その後911だけが残り、ポルシェにとって911がいかに重要かが認識されました。近年のモデルは911との近似性が重視されている印象もあり、現行パナメーラでも先代よりも2代目のほうがよりスポーティーで911に近くなったような気がしていたので、そのことについて聞いてみました。2代目パナメーラのほうが先代パナメーラよりもよりスポーティーにしようという方向性はあったとのことですが、911に近づけるということについては、そういうことではないようです。

■「911に近づけなければいけない、という認識でデザインはしてないですね。(開発時に)1/1モデルをつくって、プレゼンテーションホールなどで評価するわけですが、そのときにまず一番に評価するのは『これはポルシェに見えるかどうか』、そういう評価の仕方をするんです。ポルシェに見えるとしたら、どこがそういうふうに見えるのか。ポルシェに見えないという評価があると、じゃあなんでポルシェに見えないのか。そうやって新しくつくったクルマを吟味しながら、ポルシェのDNAを新しいプロダクトに吹き込みながら、なおかつ新しくクルマをデザインしていく、という作業です」

■「ただポルシェ社内で、『ポルシェDNA』って、みんな漠然とは頭の中にあるんですけど、スタイリング(デザイン工程)の中では、それをあえて可視化しないといけないという作業があるんです。たとえば重役に『ポルシェDNA』ってなんだって聞かれたときに、『ポルシェDNA』とはスタイリングではこういうふうに考えていますと(言えるように)、そういうプレゼーテーションツールを社内でつくって共有しているんですけれども、そこでまず言うのは、プレスカンファレンスで私がプレゼンテーションしたような、ボンネットより高い峰のあるフェンダー、V字のフード、911にインスパイアされたウィンドウグラフィック、リアのフェンダーの張り、などです。そういうのを頭のなかで吟味しながら、新しいプロダクトに注入していく、という作業をしています」

プレスカンファレンスのプレゼンテーションとは、東京モーターショーでの山下氏のスピーチです。その内容については、第3回で紹介します。

■「新しいポルシェをつくるときにふたつ大事なことがあって、ひとつはまず、ポルシェに見えるかというブランドのアイデンティティ。それはカイエンにしろ、マカンにしろ、911にしろ、ボクスターにしろ、まずそれらのクルマがポルシェに見えるか、全体のイメージとして、印象として。その次に個々のプロダクトアイデンティティ。これはマカン、これはパナメーラ、これは911、個々の見分けのアイデンティティがあるわけです。そういうのを考慮しながら新しいプロダクトは開発されていきます」

■「911が丸目だから、じゃあパナメーラも丸目にするとか、そういうのをあまりやりすぎると、それこそ双子の兄弟で、身長が高いのと低いの、みたいになってしまう可能性もありますし、それは自分たちで自分たちの視野をせばめる意味にもなりえます。だから社内では、じゃあいったいなにが最小限の要素だっていうのを深く吟味します。」

■「(パナメーラ・スポーツツーリスモなどの開発は)新しいプロダクトなので、ポルシェに見えながらも、やっぱり新しさを感じないと、お客様にアピールできないんですね、プロダクトとして」

では、911には使わないが、パナメーラには使う、というものもあるのか気になりますが、典型的なアイデアとして、パナメーラのサイドビューのグラフィックがそれに相当するようです。パナメーラのフロントのホイールアーチ後方にあるエアアウトレットのデザインで、この部分は911では、なにもなくつるんとしたセクションになっているとのことです。

■「これは、初代パナメーラから採用されたグラフィックですね。これはもう初代のパナメーラのDNAを、次の世代のパナメーラに採用した、新しいポルシェの、『パナメーラDNA』と言ってもいいです」

この意匠は、フロントエンジンということと関係がありそうですが、やはりその意味はあるとのことです。実際にエアが抜けるかどうかは別にして、フロントフェンダー後方に、エアアウトレットのスリットがあることが、フロントのエンジンを暗示するものになっているということです。

■「(フロントエンジン車は、リアエンジン車とは)内容物は違うプロポーションをもっていますので、フロントエンジンというクルマを主張をしながら、なおかつポルシェに見えるという。それでいて先代のパナメーラのイメージも受け継ぎながら、2代目としてデザインされています」

第2回に続く

(レポート・写真:武田 隆)

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